そんな多忙な2人が組むのが2013年に結成された「No Lie-Sense」。一体2人はいつ活動しているのだろう、アルバムがこれまでにも出ているがいつ制作しているのだろうと思える。が、これが結構コンスタントに作られていて、ニュー・アルバム「駄々録~Dadalogue」は実に3作目となる。
約10歳の年の差があるものの、鈴木慶一とKERAには明確な共通点がある。シリアスなものをユーモラスに表現することを得意としていること。そして古くからの文化的財産を現代にアップデートすることを一つのミッションとしているようなところだ。
例えば、鈴木慶一は古い映画にインスピレーションを受けて制作することがしばしばある。その代表的な作品の一つが、ムーンライダーズの1980年の「CAMERA EGAL STYLO / カメラ=万年筆」というアルバムだ。「架空の映画のサウンドトラック」をテーマに作られたこの作品は、実際の映画をモチーフにした独自の楽曲でまとめられたコンセプト・アルバム。「欲望」「大人は判ってくれない」といったタイトルの、でも全くのオリジナル曲には、時代に応じて優れた文化を上書きしていこうとする意志が感じられる。
KERAの方もアントン・チェーホフの「三人姉妹」や、市川崑監督の「黒い十人の女」といった作品を独自にアレンジした作品を演出したり新たな脚本にしたりするなど、文化史の継承に対しては自覚的であるように思える。バンド「有頂天」ではチューリップの「心の旅」をカバーしたし、テクノ・ポップ歌謡を標榜(ひょうぼう)したバンド「LONG VACATION」では「シェリーに口づけ」などフレンチ・ポップも多くとりあげていた。
しかも、両者のアングルはどれも洒脱(しゃだつ)でユーモラス。2人とも東京出身だからか、粋な江戸っ子風情の切れ味鋭いウィットがどの作品にもある。重いテーマでも決してダークにはならない軽やかさがある。それは時に、彼ら自身に向けた自嘲……アートを決して崇高なものにしすぎないようどこかにストッパーをかけているようにも見えるほどだ。