「今まで楽に歩いていた道を歩くのがつらくなったとか、女性の場合では、家事で難なくこなしていたこと、たとえば洗濯物を干したり、お風呂の掃除をしたりするのがつらくなったら要注意です。同じ動作が去年に比べてつらくなるといった年単位の変化や同世代の人と比較して動作が劣ってきたといったことも発症の目安になります」(渡辺医師)

 また、本人が気づかない動作の衰えなどを、家族や周囲の人が気づいてあげることも大切だという。

「狭心症のように生活習慣病が原因というような、明らかな危険因子は特にありません。加齢による動脈硬化や腎機能の低下など、長年心臓に負担をかけてきたことにより発症します。75歳を過ぎると10人に1人が発症する病気のため、ある程度年齢を重ねてきた人は意識するべき病気です」(同)

 心臓弁膜症は、できるだけ早期に発見して、医師に定期的に観察してもらいながら、最適なタイミングで手術などの根治治療をおこなうことが重要だ。

「おかしいと思ったときに受診していただければ、聴診器で音を聞くだけでも、ある程度病気があるかどうかわかります。その結果、心臓弁膜症が疑われたら、専門医のもとで、心エコー図検査を受ければ病気を発見できます」(同)

■手術が第一選択 タイミングも重要

 心臓弁膜症だとわかると、根治を目指す場合には、手術が第一選択の治療となる。現時点では、薬物療法は症状を抑えることはできても、治すという科学的根拠はないためだ。

「手術をするタイミングが大切です。慎重に決めて、患者さんご本人のライフスタイルや価値観、希望なども考慮して、手術方法を決めます。今は手術の選択肢が増えていると同時に、カテーテルによる内科治療も普及し始めています。いろいろな治療のバリエーションが考えられるようになっています」

 そう話すのは、東京医科歯科大学病院心臓血管外科教授の荒井裕国医師だ。2019年11月に開催された日本心臓弁膜症学会の会長を務めた。

「患者さんの病気の種類、病状、全身状態によって、どういう治療方法を選択すべきかを、外科と内科できちんと話し合って決めることが大切です。また、発症年齢にもよりますが、心臓弁膜症は、年月とともに再治療、再々治療が必要になる場合もあります。最初にどのような治療をおこない、その後どう治療をしていくかも慎重に決めるべきなのです」(荒井医師)

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