林:「♪嫁に来ないか……」
芳村:そうそう。本番前に資料を見たら、出身が東北の岩手県の田舎で、親にも親戚にも反対されて、それを振り切って出てきたって書いてあるの。この子、今日うまく歌えなかったら田舎に帰っちゃうんだろうなと思って、私、心配になっちゃって。本番のとき、彼の背中に手を当てたら、背中がブルブル震えてるのよ。
林:緊張してらしたんですね。
芳村:ああ大変、この子を田舎に帰すわけにいかないと思って、背中をゆっくりさすりながら、私、東北に疎開してたことがあるので、千(昌夫)さんと一緒に東北弁で冗談を言ったりしたんだけど、彼はそれどころじゃないのよ。どうかうまく歌えますようにって、祈るような気持ちで「さあ! 新沼謙治さんですよ~っ」ってそっと背中を押したの。
林:まあ、やさしい。私、忘れられないのは、小川知子ちゃん。彼女、泣いちゃって……。
芳村:福澤(幸雄)君が事故で亡くなっちゃって、その直後の出演でしたから(69年2月放送)。
林:恋人だったんですよね。若い人は知らないと思うけど。
芳村:福澤諭吉の曽孫ね。レーサーでモデルでナイスガイで、すごくカッコいいのよ。
林:ハーフですよね、フランス生まれの。
芳村:モデルさんのガールフレンドとかいっぱいいたんだけど、あのときは知子ちゃんがガールフレンドだったのね。
林:途中で歌えなくなって、中村晃子さんとかいしだあゆみさんとか、みんなが横で励ましてたのを、きのうのことのように思い出しますよ。
芳村:しかも「初恋のひと」っていう歌なんだもん。
林:「♪そよ風みたいにしのぶ あの人はもう……」
芳村:すごい。よく覚えてる!!
林:百恵さんも印象に残ってます。
芳村:彼女は断トツ。百恵さんと森昌子ちゃんと(桜田)淳子ちゃん、同級生でセーラー服のままカバン持ってリハーサルに飛んでくるんですよ。そしてピアノの横にカバンを置いて、音合わせを待ってるあいだ、ピアノの下で3人で宿題やってるの。