TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。今回は、過去に経験した芥川賞・直木賞の取材について。
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周知のように、第163回芥川賞・直木賞の受賞作が決まった。芥川賞は高山羽根子さんと遠野遥さんの二人、直木賞は馳星周さんだった。
報道番組の新米ディレクターだった頃、僕も選考会の開かれる築地の新喜楽に足を運んだ。朝日新聞社の近くにある老舗高級料亭の会見場で選考結果を待つのは各新聞社のベテランの記者ばかりだった。街頭インタビューからはじまって、政治・経済、社会・スポーツ、芸能までマイク一本で何でもやらされるラジオ記者と違って、文化部の記者は、すべての文学作品に通じているような大人の雰囲気がした。一夜漬けで知識を詰め込み、着慣れないスーツ姿の20代の僕は、そうしたおじさんたちに囲まれながら、記者用に黒漆の小盆に置かれたつまみとビールの小瓶を前に、授賞発表を待っていた。
当時、FM東京は「文化と教養」を旗印にしていたから、文化イベントに関しては共同通信の入電を待つことはせず、ディレクター自ら取材するしきたりだった。芥川賞・直木賞も選考結果が出ると同時に局に連絡し(携帯のない時代だったから外へ出て赤電話で)、他社に負けじと第一報を入れなければならなかった。選考会後には、東京會舘の記者会見場に駆けつけた受賞者の喜びの声をデンスケに録って編集し、翌朝の生ワイドで送出する仕事が待っていた。
朝ワイドのパーソナリティはH氏賞詩人の清水哲男さんだった。「詩人」に渡す原稿だから徹夜で推敲を重ねた。番組が終わると清水さんは吉祥寺の居酒屋でビールを飲みつつ、文章の稽古をつけてくれた。彼は河出書房の名うての編集者でもあった。駆け出し記者の放送台本は散々だったに違いない。僕は毎週の課題と何時間にもわたる清水さんの文章の講義についていくのに必死だった。