話をお聞きすると、それは結婚当初からあまり変わらず、たまにその話をしても、毎回もっともな話をされて、仕方ないな、彼も頑張っているのだから自分ももう少し我慢しないとな、と思ってきたそうです。

 どんな話が「仕方ない」のかお聞きしてみたら、

「リーマンショックで、会社が危機的状況だから、頑張らなければ」
「新製品に問題が見つかって、会社がドタバタしているから、自分も頑張らなければ」
「有能な部下が数人同時に辞めて独立してしまって、自分が対応すべき仕事が増えた」
「社長から特命プロジェクトを任されて、今年中に結果を出さなければならないから」

 など、いろんな理由があったのだそうです。

 直美さんは何回かお一人でご相談にお出でになり、やるかたないお気持ちをお話しになって、「誰にも話せないことなので、話せてよかったです」とおっしゃって帰って行かれたのですが、ある時から、お二人でお出でになるようになりました。

「具体的にどうしたらいいのかわからないのですが、一人で愚痴を聞いてもらって、ちょっとすっきりしたところ、結局何も変わらないな、と思って、彼にも来てもらいました」

 とのことでした。

「何がどうなったら、お二人でカウンセリングにお出でになったかいがありますか?」

 とお聞きしてみると、

「わかりません。私は夫にもう少し家にいてほしいのですが、彼が帰ってこられない事情もよくわかるので」

 とおっしゃいます。

「一昭さんの事情はさておき、直美さんはどうなったらうれしいですか?」

 と改めてお聞きすると、

「彼が、もう少し家にいてくれれば……」

 とおっしゃり、

「でも……」

 と続けそうになったので、遮って、

「彼に、家にいてほしいのですね。もう少しというのは、どのくらいいてくれたらいいですか?」

 とお聞きすると、ちょっと躊躇しながらも、

「私の希望を言えば、せめて週2日と土日のうち1日」

 とおっしゃいます。

 一昭さんに、

「どう思います?」

 とお聞きしたところ、直美さんがおっしゃっていたような、帰ってこられない理由を滔々とおっしゃいました。

 事態が変わったのは、コロナでお二人とも在宅勤務になったことです。直美さんが望んだ以上の結果が期せずして得られたのです。夫は週7日24時間、家にいるようになりました。計算上は、希望した週2日と週末1日の倍以上、夫は家にいます。

 しかし、直美さんの気持ちは晴れませんでした。

 直美さんは言いました。

「私は、夫が家にいないことが不満なのだと思っていましたが、本当は家にいるとかいないとかではなくて、夫に構ってもらえないことが問題なんだってわかりました」

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気持ちを揺さぶられて気づく「本質的なこと」