被験者の血液を採取し、血清を得る。血清の中に多数の抗体が含まれている。キットの窓に血清を垂らすと毛細管現象で移動が始まる。抗体は最初のゾーンで、仕込まれていたウイルスタンパク質と出会い、結合する。抗体―ウイルスタンパク質複合体は、さらに移動して、次の検出ゾーンで、固定された抗ヒト抗体と出会う。すると抗ヒト抗体―抗体―ウイルスタンパク質複合体ができる。ウイルスタンパク質にはあらかじめ標識色素が付けられており、この検出ゾーンに複合体が集積すると、発色ラインが現れる。

 余剰のウイルスタンパク質はさらに移動し、もうひとつのゾーンで、固定された抗体(あらかじめ動物を使って調整された抗ウイルス抗体)によって捕捉される。このゾーンは対照区と呼ばれ、検査が正しく行われているか(血清・ウイルスタンパク質が毛細管現象でちゃんと移動しているかどうか)確認するところだ。ウイルスタンパク質が集積すれば発色する。

 もし、被験者の血清中に抗ウイルスタンパク質抗体ができていれば、最初のゾーンと対照区ゾーン、ともに発色ラインが出て、抗体検査陽性となる。もし、被験者の血清中に抗ウイルスタンパク質抗体がなければ、最初のゾーンは無発色、対照区ゾーンだけが発色し、陰性となる。対照区が発色しないときは、検査がうまく行われていないことなるので再検査となる。

 現在、コロナ対策に広く使われている市販の抗体チェッカーは、ウイルスのどのタンパク質を最初のゾーンに仕込んであるのか、明示されていないケースが多い。おそらくはスパイクタンパク質を用いていると思われるが、各製薬メーカーは、この点の情報をきちんと開示してもらいたい。というのも、コロナウイルスの仲間内では、スパイクタンパク質の構造に類似性があり、新型コロナウイルス特異的な免疫を検査できているかどうか、信頼性が必要となるからである。

○福岡伸一(ふくおか・しんいち)/生物学者。青山学院大学教授、米国ロックフェラー大学客員教授。1959年東京都生まれ。京都大学卒。米国ハーバード大学医学部研究員、京都大学助教授を経て現職。著書『生物と無生物のあいだ』はサントリー学芸賞を受賞。『動的平衡』『ナチュラリスト―生命を愛でる人―』『フェルメール 隠された次元』、訳書『ドリトル先生航海記』ほか。

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