歌舞伎座が5カ月ぶりに上演を再開した。しかし、前後左右の座席が空けられ、幕あいの弁当もなく、大向こうも禁止と異例ずくめ。「待ってました!」と叫ぶことはできないが、なぜこのコロナ禍で再開を目指したのか? 再び舞台の幕を開ける意義などについて話を聞いた。
【写真】「図夢歌舞伎」稽古中、衣裳や床山などの裏方はフェースシールドを着用
東京・東銀座の歌舞伎座では、連日さまざまな演目がかけられ、大勢の客で賑(にぎ)わっていた。だが、新型コロナウイルス感染拡大で状況は一変。2月26日に千秋楽を迎えた「二月大歌舞伎」を最後に、興行の中止を余儀なくされた。
4月はメンテナンスによる休館が決まっていたが、5~7月は「市川海老蔵改め十三代目市川團十郎白猿襲名披露」興行が予定されていた。しかし、コロナ禍で延期になった。
「3カ月間の興行を短くする案もありますが、やはり“完全なる形”で取り組みたい。襲名を大切に思う興行側の姿勢として受け止めてほしい」
歌舞伎座の橋本芳孝支配人は、苦渋の決断だったと振り返る。
緊急事態宣言が発出され、歌舞伎座前も人の流れが途絶えた。早く再開したいという思いはあっても、役者やスタッフ、客の安全確保を考えると、容易なものではなかった。
「安全が確認でき、安心していただける状況になるまで待つしかない。でも、立ち止まっているわけにもいきません」
宣言解除後も、客席、楽屋、舞台上が密にならず、安全に公演できるか模索する日々が続く。一方で、「再開までしばらく待って」という思いを込め、「ゆるりと歌舞伎座で会いましょう」を合言葉にしたポスターを作製。劇場前に掲示し、ツイッターで発信もした。
そして6月29日、興行元の松竹が8月1日から公演を5カ月ぶりに再開すると発表。同時に、感染拡大防止対策のため、異例ずくめの公演となることも明らかになった。
通常は昼夜2部制だが、1演目ごとの幕あいなしという史上初の4部制に。座席は前後左右と花道沿いは2席以上空け、桟敷席もなし。通常の半分以下の823席となった。