自粛中にラブラドルレトリバーの「ニッキー」を飼い始めた松本幸四郎さん=松竹提供
自粛中にラブラドルレトリバーの「ニッキー」を飼い始めた松本幸四郎さん=松竹提供
5回に分けて配信された「図夢歌舞伎」の画面。何役も演じた幸四郎さんは画面上で自分と“共演”=松竹提供
5回に分けて配信された「図夢歌舞伎」の画面。何役も演じた幸四郎さんは画面上で自分と“共演”=松竹提供

 現在、上演中の「八月花形歌舞伎」。第四部の「与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)」に出演する松本幸四郎さんが、歌舞伎座再開への思いなどについて語った。

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「再び舞台に立てるのは素直にうれしいですけど、筋書きや弁当の売店、イヤホンガイドなど全てがあってこその歌舞伎。この状況下でどうやったら再開できるかを熟慮した上でこの形に行きついたわけですから、これがまず第一歩。客席が半分以下しかなくても、役を演じるにあたっては何も変わりません」

 演出面でも、役者同士が対面で近づいて話さないようにするなど、工夫を凝らしているという。

「演出面でも配慮されているものをお客様がご覧になることで、安心してもらえることもあるのではないでしょうか」

 3月に行った収録用の無観客上演を最後に、予定が空白になったという。

「次に具体的なことが決まっていないのは何十年ぶり。何をしたらいいのかと悩むより、何もできない無力感がありました。でも、『歌舞伎とは何か?』を改めて考え直すよりも、今、歌舞伎に何ができるのかということを考えていました」

 そんな中、松竹の社員有志を中心にオンライン会議システム「Zoom」にひっかけたオンライン配信の「図夢(ずうむ)歌舞伎」に向けて動き始め、幸四郎さんに声がかかった。

「今こそ役者が何かを発信すべきだと思っていたので『待ってました!』という感じでした」

 オンラインだが、歌舞伎座の昼の部開演時間と同じ午前11時からの生配信にこだわった。演目は「忠臣蔵」。客席からは見られない相手役目線で撮影したり、別に撮影した相手役の映像に対して生で演じたりと実験的な試みをいくつも実践した。

「全く異なる環境で歌舞伎をやるのは大変でしたが、歌舞伎ならきっと成立できるはずと思っていました。家で好きな時間に好きなだけ作品を見られる今だからこそ、舞台を生で見ることは逆にレア。だからこそ存在しうる価値があるはず。役者にとっても、『今月は歌舞伎座で、来月は図夢歌舞伎に出る』というように選択肢の一つになってほしい」

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