筋層浸潤性の膀胱がんでは、膀胱全摘除術をおこなっても、T2の約3割、T3の約5割が将来的に転移再発するとされている。転移再発は、尿管や腎盂、リンパ節、肺、骨などの他臓器に起こる。そのため、膀胱全摘除術の前後に、術後の転移再発予防の目的で、薬物療法が補助療法として用いられることが多い。補助療法の導入で、約5~10%、転移再発のリスクを下げられるという。筑波大学病院腎泌尿器外科教授の西山博之医師は話す。
「再発してからではなく、抗がん剤を早期に導入することで、再発率を下げ、完全に治る可能性が高まる効果が見込まれています」
■抗がん剤を早期導入 再発率を下げる
他臓器に転移した場合の治療は、抗がん剤による薬物療法が中心になり、ゲムシタビン+シスプラチンのGC療法が第一選択となる。2剤を組み合わせて3週間、あるいは4週間を1サイクルとして、効果や副作用などをみながら、最長6サイクルおこなう。病院によって外来投与、あるいは入院して投与するところもある。副作用として、脱毛、吐き気、白血球や血小板の減少、貧血などがみられる。
そのほか、M-VAC療法(メソトレキセート+ビンブラスチン+アドリアマイシン+シスプラチン)や、投与間隔を短くしたDD-MVAC療法などがおこなわれる。
がん治療で注目されている免疫チェックポイント阻害薬は、膀胱がんでは、ペムブロリズマブ(商品名・キイトルーダ)が保険適用になっている。抗がん剤全身投与療法後に再発した難治性のものが対象で、有効率は約3~5割という。
「これまでは転移再発の患者さんには抗がん剤以外に治療法がなかったため、ペムブロリズマブは大いに期待されていると思います。現在、転移性膀胱がんに対して、もっと早い段階で投与できないか、Ta~T1の筋層非浸潤がんでBCG膀胱内注入療法が効かない症例を対象に治験がおこなわれています。膀胱全摘を回避できるような治療法になるのではと結果が待たれています」(西山医師)
同じ泌尿器のがんである前立腺がんに比べて、膀胱がんの進行は速い。初発症状である血尿をみたら膀胱がんの可能性も考えて、早めに泌尿器科を受診することが肝要だ。
なお、膀胱がんの手術に関して、週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2020』では、全国の病院に対して独自に調査をおこない、病院から回答を得た結果をもとに、手術数の多い病院をランキングにして掲載している。同ムックの手術数ランキングの一部は特設サイトで無料公開。
手術数でわかるいい病院
https://dot.asahi.com/goodhospital/
(文・別所文)
≪取材協力≫
藤田医科大学病院 副院長・腎泌尿器外科 主任教授 白木良一医師
筑波大学病院 副病院長・腎泌尿器外科教授 西山博之医師
※週刊朝日ムック『新「名医」の最新治療2020』より