「例えツッコミ」を得意とする芸人は多いが、ノブの「例え」は独特である。あまり他の人が使わないようなフレーズをあえて持ってきていることが多い。多くの場合、例えツッコミで起こるのは「言い得て妙」の共感の笑いなのだが、ノブの場合には「よくわからないけどそうなのかなと思わせる」という絶妙なところを突いてくる。その境地にたどり着いたことでノブのツッコミは爆発的に面白くなった。

 そして、もちろん言葉を発するときのタイミングや強さも重要だ。「◯◯じゃ」「◯◯せい」「◯◯すな」といった岡山弁混じりの言葉や、「クセがすごい」といったオリジナリティのあるフレーズを、これでもかというくらい粘っこい言い方で口に出す。他人に「クセがすごい」と言っているノブこそが、いまや日本一の「クセツッコミ」の使い手である。

 ツッコミの技術は「何を言うか」と「どう言うか」の2点に集約される。その両方の要素で上積みをしたことで、ノブはメジャーへの階段を駆け上がっていった。

 もちろん、見た目の変化も重要だ。ノブは美容に気を使うようになり、ヒゲを脱毛して、前髪を上げた。ただそれだけのことで千鳥というコンビの印象は様変わりした。月並みな言い方だが、華が出てきたのだ。

 また、ノブは自分自身を平凡で普通の人間だと言っている。みんなが見ているような流行りのドラマや音楽は一通りチェックして、最新の情報に触れている。その旺盛な好奇心と知識の幅広さが司会にもツッコミにも生かされている。

10月の改編では千鳥として新たに『千鳥のクセがスゴいネタGP』が始まり、深夜番組の『テレビ千鳥』は22時台に繰り上がり、ノブとテレビ朝日の弘中綾香アナの新番組『ノブナカなんなん?』もスタートする。クセツッコミの名手がお笑い界の盟主となる日も近いかもしれない。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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