かつて「政治の季節」が確かにありました。1960年代後半から70年代前半にかけての安保闘争、学生運動の盛り上がり、成田空港建設に反対する三里塚闘争など、世の中は政治の一挙手一投足に目を配り、国民は自ら政治に関わることで、日本を変えようとしていました。
そして現在――。自民党の一党支配から民主党への政権交代を果たし、東日本大震災を経験した日本は、かつてないほど「政治の力」が問われています。「朝日ジャーナル 政治の未来図」には、今、私たちが考えなければならない政治の課題が詰まっています。
まず巻頭は、読売新聞・渡辺恒雄主筆の100分に及んだロングインタビュー一挙9ページ掲載です。
御年85になる、戦後政治の生き字引ともいえる渡辺主筆が、自身の「政治道」を、あのナベツネ節で吠えています。
「野田さんは、自民党の領袖であっても不思議のない人ですよね。財務官僚を完全に使いこなしてるし、それに近い能力をもった人を重用してはいる。小沢・鳩山グループが百何十人もいるわけですから、妥協しなきゃ、党は運営できない。だから、輿石東さんを幹事長にし、今のような組閣をした」
「被災地は20兆円か30兆円ありゃ、すぐ復興できるんですよ。それぐらいのカネ、あるんですよ。今、僕は党を問わず有力者を説得中なんだけど、一つは、新札に交換されてない1万円の旧札が10兆円ある。租税回避のために隠されてるんです」
「自民党も民主党も割れたらいいんだ。だって、自民党だって、メチャメチャなことを言ってる自民党らしくない人がいるんですよ。民主党のほうだって二極化してる」
言語明瞭、意味深長。読売新聞社の主筆室で行われたこのインタビューで、渡辺主筆はスーツの上着を脱ぎ、白いワイシャツとサスペンダー姿で、パイプをくわえながら終始上機嫌で語っていました。
こんなやりとりもありました。「朝日ジャーナル」の印象を渡辺主筆に問うと、
「アカイ アカイ アサヒ」
とニヤリ。71年の、赤瀬川原平氏の連載「櫻画報」が発端となった"朝日ジャーナル回収騒動"を真っ先に挙げ、取材陣が苦笑いしてしまう一幕も。
◆他誌で読めない注目の政治学者◆
今回の「朝日ジャーナル」の核とも言える寄稿論文は、山口二郎、北岡伸一、飯尾潤、宇野重規、田中明彦の各氏ら、今最も注目されている24人の政治学者がそろい踏みしています。
それぞれが"災後"の日本を考えるための「政治的視座」から、この国が抱える政治的課題を論じています。
例えば選挙制度。早稲田大学の田中愛治教授は、
「小選挙区比例代表並立制が1996年に実施されてから15年が経ったが、この選挙制度の下で政党と政治家が何を誤解し、国民は本当は何を望んでいたのかを考えてみたい」
と問題提起し、小選挙区制の下で日本が陥った混迷と、野田佳彦政権誕生に寄せる期待を語ります。
多くの論者が共通の課題として挙げていたのが、参議院の役割と存在意義についてでした。
政策研究大学院大学の竹中治堅教授は、「現在の参議院の最大の問題は内閣に対する抑制を利かせすぎていることにある」として、
「参議院での妥協を促すためには、中小政党や無所属の候補者が当選しやすい仕組みに改めるべきである。具体的には、現在の選挙区と比例区に代えて地域ブロックごとの大選挙区制を導入すべきである」
などという視点でいくつかの提案をしています。
北海道大学の空井護教授は、二大政党制のもとでの衆議院と参議院の「ねじれ」の問題を提起。
「私たちの前にあるのは、衆院選で大勝しながら、1年後や2年後の参院選で、半数改選というアドバンテージにもかかわらず過半数を維持できないような、組織的基盤もイデオロギー的基盤もひ弱でゆるい二つの大政党である。こういう政党が主要政党を構成する限り、たとえそれが一党で両院の多数派の地位を占めたところで、そのもとで下される政治的決定の不確実性は高い」
◆政経塾取り巻く人生の分岐点…◆
8月に誕生した野田首相は、初の松下政経塾出身の宰相としても話題になりました。
松下電器(現・パナソニック)の創業者である松下幸之助氏が1980年、新しい日本の指導者を育成すべく私財を投じて開塾したのが松下政経塾です。
現在の民主党政権は、前原誠司政調会長や樽床伸二幹事長代行、玄葉光一郎外相ら、政経塾出身者によって支えられているといっても過言ではないでしょう。
『松下政経塾とは何か』(新潮新書)の著者であるジャーナリストの出井康博氏によるルポ「松下政経塾の光と影」は、野田首相と同じ志を抱いて政経塾の門をたたいた1期生4人のその後の人生を追いかけています。
選挙、野心……、人生の分岐点で彼らは何を考えたのか。そして、野田首相誕生で何を思うのでしょうか。彼らは今もまだ、幸之助氏が希求した「本物の政治家」になろうとしています。
すでに巷で話題になっているのが、少女の表情が印象的な、ホンマタカシさんによる撮り下ろし表紙写真です。99年に写真集『TOKYO SUBURBIA 東京郊外』で木村伊兵衛写真賞を受賞したホンマさん。自らも「朝日ジャーナル」読者であったということもあり、今回の企画には特別な思いで取り組んでいただいたようです。
「政治は大人の権力争いではなく、子どもやボクらの未来の問題だと思う。その事を政治家や評論家たちは忘れないで欲しい」
と発刊へのコメントを寄せてくれました。
最後になりますが、今回の「朝日ジャーナル」は、特別協力として東京大学の御厨貴教授(政治学)に全面的にご協力をいただきました。その御厨教授から読者の皆さまへのメッセージです。
「今の政治に怒りの鉄槌を振り下ろしたい。『朝日ジャーナル』の企画への参加を求められた時、即座に思いました。なぜならジャーナルという器は、異議申し立てのためにこそあったのですから。老壮青の仲間たちにお願いをしたところ、たちどころに現状打破への闘志を燃やした原稿が寄せられた。まさに感激の一言。ぜひお読みください!」