作家・北原みのり氏の連載「おんなの話はありがたい」。今回は、「維新の会」について。コロナ禍で世間の注目を集めた政治家の言動に、違和感を抱いているという。
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目の前で起きている不愉快な現象、そこでわき上がるざわざわした気持ち、この状況に名前をつけて整理してみたいが、この現実を直視するのも気が重い……。そういう状況に、コロナ禍になってからずーっとさいなまれている。「維新の会」に対してである。
世の中の論調で言えば、コロナ禍の状況で大阪府の吉村洋文知事への注目度が高まっているという。なぜなら発信力があるし頑張っているし、ということらしい。そうなのか。さらに吉村知事の真剣な表情を「イケメン」ともてはやす声もある。同じものを見ていても、ここまで違う感想が大多数を占めるものなのか。私には、吉村知事は発信力はあるが中身がなく、その中身のなさや不安を隠すために真剣な表情を崩さずにいるように見えてしまう。というか、ポビドンヨードの記者会見のときの真剣さは、かなり滑稽に見えた。ファンの方……ごめんなさい。
そう、あの人、政治家というよりもヒーローを演じている感じがするのだと思う。地道に人を救う道を歩んでいるのではなく、ヒーローだったらこうする……みたいな物語を演じているような。単なる東京人の感想ですけど。
それにしてもポビドンには驚いた。多くの人が指摘してはいることだが、「ポビドンヨードを使ってうがいしている人」「全くうがいをしない人」での比較をもって「ポビドンヨードに効果あり!」とする乱暴さは、アベノマスク級の理不尽であろう。それでもヒーローが好きな人たちからは、「何もしない(総理)よりマシ」と擁護する声も少なくなかった。信頼できない情報を堂々とまき散らすヒーローの真剣さのほうが、おぼっちゃまの意固地よりも私には怖いのだけれども。
なによりポビドンヨードの記者会見時の吉村知事の隣に座る松井一郎・大阪市長のだらしなさには言葉を失った。いすにだらんと座り、腹を突き出しふんぞりかえり、威張ったように「無理な買い占めをしなければ、(うがい薬が)なくなることはあり得ない」と松井市長は言ったのであった。そりゃそうでしょうよ……とその場にいた記者の誰もが心の中で叫んだに違いない。まるでヒーローを演じる青年を子分に従えた人口数十人の町内会みたいな記者会見(全国の町内会の皆さん、ごめんなさい!)に、なぜ日本中が振り回されなければいけないのでしょうか。