阿部直美(あべ・なおみ)/1970年、群馬県生まれ。著書に『おべんとうの時間』(1~4巻、木楽舎、阿部了との共著)、『里の時間』(岩波新書、芥川仁との共著)などがある(撮影/写真部・高野楓菜)
阿部直美(あべ・なおみ)/1970年、群馬県生まれ。著書に『おべんとうの時間』(1~4巻、木楽舎、阿部了との共著)、『里の時間』(岩波新書、芥川仁との共著)などがある(撮影/写真部・高野楓菜)
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 AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。「書店員さんオススメの一冊」では、売り場を預かる各書店の担当者がイチオシの作品を挙げています。

 ANA機内誌「翼の王国」の人気連載「おべんとうの時間」。その筆者は幼少時代から家族の呪縛に悩んでいた──。『おべんとうの時間がきらいだった』は、家族との葛藤を抱えるすべての人に捧げるビタースイートなエッセーだ。著者の阿部直美さんに、同著に込めた思いを聞いた。

*  *  *

 タイトルに「えっ?」と驚かされる。写真家の夫・了(さとる)さんと普通の人のお弁当を訪ね20年。大人気の『おべんとうの時間』著者・阿部直美さん(49)が『おべんとうの時間がきらいだった』って──?

「決して『おべんとうの時間』の取材がきつかった、とかではないんです(笑)。14歳からずっと書きたかった話を、ようやく書くことができた」

 本書は阿部さんの少女時代と家族への思いを綴ったエッセーだ。厳格で怒りっぽい父。いつも不機嫌な母。二人の間には諍(いさか)いが絶えなかった。

「自分とあまりにもタイプが違う両親で気持ちのつながりがまったくなかったんです。なぜこの人たちはこうなんだろう?と不思議だった」

 理不尽と閉塞(へいそく)に押しつぶされそうな10代の心が鮮明に描写されている。小4から書きためた日記が執筆に生きた。現実からの突破口を探して高2でアメリカに留学。真の家族と思えるホストファミリーとの出会いで人生が輝きだす。そして1998年に了さんと結婚。「弁当とそれを食べる人の写真を撮りたいんだ」と言われたとき、ドキリとした。中学時代、母が作る弁当は茶色く湿っぽく、前の晩に父の怒声を浴びたハンバーグが入っていた。とても人に見せたいものではなかったのだ。

「『お弁当を通して家族を見る? なんて恐ろしい!』と思いました。お弁当にはその人の家庭が映る。知られたくない部分に踏み込むことになるのでは、と」

 が、次第に気持ちが変化した。中学生の自分だったら断っただろう。でも留学で図太くなった高3の自分ならOKしたはずだ。了解を得た人だけを取材し、そこに見える現実をそのまま受け止めればいい。夫の目を通じて物事の見方が変わっていった。

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