トランプ氏やその支持者がマスクを嫌い、着用派との対立が先鋭化している米国。激しい対立の背景には何があるのか、AERA 2020年8月31日号で取材した。
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「手術を終えたばかりの兵士らと話すような特殊な環境で、マスクを着けるのは素晴らしいことだ。私はマスクに反対したことはない」
米国のドナルド・トランプ大統領が公の場で初めてマスク姿を見せたのは、首都ワシントン近郊の米軍医療施設を訪れた7月11日だった。トランプ氏はこう述べて、それまでの「反マスク」の態度を軟化させたかのように見えた。
新型コロナウイルスが流行して以降、米社会はマスク着用への賛否で激しく分断した。構図はおおむね、「保守対リベラル」「トランプ対反トランプ」と重なる。この分断は、冒頭の発言で収まるほど表面的なものではなかった。
8月13日、大統領選で民主党候補となったジョー・バイデン前副大統領が、全国民が少なくとも3カ月は外出の際にマスクを着用することを求めた。するとトランプ氏は「非科学的」と非難し、こう述べた。
「我々はある程度の自由を望む」
米ジョンズ・ホプキンス大の集計によると、米国では19日夜までに約548万人の感染者を出し17万人以上が死亡したが、マスクをめぐり各地で反対運動が起きた。5月には、中西部のミシガン州の日用品店で、着用をめぐり警備員の男性が射殺される事件まで起きた。
カリフォルニア州オレンジ郡在住のジャーナリスト、志村朋哉さん(37)は、6月に地元であった出来事を思い出す。
「郡の公衆衛生長官が突然、辞任したのです。自宅まで押しかけられて、抗議デモを行ったマスク反対派の人たちに脅されたようです。命の危険を感じたのでしょう」
同州では3月中旬から約2カ月間、都市封鎖が行われた。解除後の5月22日にオレンジ郡が店舗や職場、6フィート以上のソーシャルディスタンスを確保できない場所ではマスクを着用することを義務づけ、これに保守派の人たちが激しく反発した。
「選挙で選ばれたわけでもない保健当局の責任者の自宅にまで行って脅すのは、オレンジ郡の反マスク運動の象徴的な出来事でした。マスク着用に反対している人たちは、私が取材してきたトランプ氏の熱狂的な支持層と重なっています。彼らはマスクをしないことでトランプ氏への支持を表明しているようにも見えます」(志村さん)