口の中をきれいに清掃して唾液の分泌を促すと唾液をのみ込むようになるため、のみ込みの訓練にもなるという。
「40歳を過ぎるとのみ込む力は低下していきます。誤嚥性肺炎を発症してからではなく、早い時期から粘膜清掃も含めた口腔ケアを習慣にするといいでしょう。粘膜経由で感染するインフルエンザの予防策としても有効です」(同)
■ワクチン接種でリスクを減らす
誤嚥性肺炎のリスクを減らすには、原因となる肺炎球菌やインフルエンザのワクチンの接種も効果的だ。東京都健康長寿医療センター・呼吸器内科部長の山本寛医師はこう話す。
「高齢者に23価肺炎球菌ワクチンを接種することで、肺炎球菌性肺炎の発症は63・8%も減少し、死亡はなかったという報告があります。また、肺炎球菌ワクチンとインフルエンザワクチンを両方接種すると、肺炎による入院を63%、死亡を81%も減らすことができるとされています。65歳以上の人は肺炎球菌ワクチンが定期接種扱いになっているので、ぜひ受けてください」
さらに山本医師は、
「服用している薬が誤嚥性肺炎のリスクを高める場合もあります」
と指摘する。問題になる薬の一つが、高齢者が常用しがちな睡眠薬だ。とくに筋弛緩作用のある睡眠薬を飲んでいると嚥下にかかわる筋肉の緊張が保てず、睡眠中の誤嚥を起こしやすい。
また、前立腺肥大症の薬やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の吸入薬、アレルギー疾患に使われる抗ヒスタミン薬などは、抗コリン作用で唾液の分泌が減少して、口腔内細菌の増殖に拍車をかけてしまうこともある。
「高齢者は、多種類の薬を服用していることが多い。誤嚥性肺炎を起こしたことのある人は、主治医に相談し、薬を見直してみることも大事です」(山本医師)
(文・熊谷わこ)
≪取材協力≫
札幌西円山病院 歯科診療部長 藤本篤士歯科医師
東京都健康長寿医療センター 呼吸器内科部長 山本 寛医師
※週刊朝日ムック『新「名医」の最新治療2020』より
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