■ブラッシングで細菌を掻き取る

 口腔ケアは、ブラシで汚れや細菌を掻き取ることが基本だ。歯を磨けばいいと考えがちだが、藤本歯科医師は「粘膜の清掃が大事」と強調する。

「口の中に占める歯の表面積の割合は、28歯そろっていても約25%。残りの約75%は粘膜です。歯だけでなく粘膜を掃除して細菌を減らすことで、のみ込みが悪い人が唾液の誤嚥をしても、細菌が感染するリスクを下げることができます」

 歯がある人は歯ブラシで歯や歯肉との境目を磨いたあと、粘膜用の柔らかいブラシやスポンジに水を含ませて頬の内側、上あご、舌などを擦り(イラスト参照)、うがいをして洗い流す。

 藤本歯科医師は毎食後に加え、起床後のケアも勧めている。

「眠っている間はのみ込む頻度も低くなり、抗菌作用がある唾液が減少するので、口の中の細菌数は約30倍に増殖するとされています。朝一番にケアをしてから朝食をとれば、食べ物と一緒に多量の細菌をのみ込まずに済みます」

 義歯も正しい方法で清掃することが大事だ。洗浄液に浸けるだけでは十分に細菌数を減らせない。口から外したらまず義歯ブラシで全体を清掃してから、洗浄液に浸ける。洗浄液から出した後に再度ブラッシングをするといい。

 口腔ケアの肺炎予防効果は高く、全国11カ所の特別養護老人ホームの入所者を対象にした2年間におよぶ調査では、従来通りの口腔清掃をしたグループの肺炎発症率は19%だったが、口腔ケアをしっかりおこなったグループは11%に低下した。さらに肺炎による死亡率も従来通りのグループは16%だったが、口腔ケアグループでは半分以下の7%に抑えられた。

「誤嚥性肺炎の発症や再発を防ぐには、食事で栄養状態を維持すること、誤嚥をしないようにのみ込みの訓練をすること、口腔ケアで細菌数を減らすことが大事です。脳梗塞などで意識障害がある人は、胃に直接栄養を送る胃ろうを造設して口から十分な栄養をとれていなかったり、からだを動かす嚥下機能訓練ができない場合もありますが、口腔ケアなら介護者の手でおこなうことが可能です」(藤本歯科医師)

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