都内の会社員の女性(39)も、オンライン疲れで体調を崩した。
「朝から晩までオンライン会議が4、5件あり、そのせいか食欲不振、吐き気を覚えるようになってしまいました。電話が鳴っているような空耳もあり、心療内科に通い、抗不安剤を服用しています」
NTTコム オンラインがツイッターの投稿内容を分析したところ、2月1日~5月14日に「オンライン疲れ」という単語を含んだ投稿は約80万件あったという。
「オンライン疲れの背景には、デジタル機器の使用による“脳過労”があると考えられます」
そう話すのは、脳神経外科医で「おくむらメモリークリニック」(岐阜県岐南町)理事長の奥村歩(あゆみ)医師だ。
脳過労とは脳の処理能力が落ちた状態を指し、「大事な会議を忘れてしまった」「よく顔を合わせる同僚の名前が出てこなかった」……といった“もの忘れ”の症状を訴える人が多い。
ロート製薬が5月に10~50代の男女562人を対象に実施した調査では、在宅勤務が毎日という人は26%、週に3日以上という人は21%。また、デジタル機器との接触時間は、在宅勤務を取り入れている人ほど長い傾向にある。「コロナ禍において、1日あたりのデジタル機器との接触時間に変化はありましたか」という質問には、毎日在宅勤務という人は62%以上が「のびた」と回答、1日あたり5時間以上増えたという人も22%にのぼった。
なぜ、デジタル機器の利用が脳過労につながるのか。
奥村医師によると、脳の司令塔的存在である前頭前野(ぜんとうぜんや)で情報処理をする場合、次の三つの役割に分担されているという。
(1)浅く考える部分…記憶を一時的に保管する「脳のメモ帳」。ワーキングメモリという
(2)深く考える部分…前頭前野の熟考機能で司令本部的な働きをする
(3)ぼんやりと考える部分…デフォルトモードネットワークという。ぼーっとしているときに働く
脳過労というと、脳全体を酷使しているイメージがあるかもしれないが、実はデジタル機器による脳過労は(1)だけが酷使されて疲弊し、(2)と(3)が使われずにさびついていく状態なのだという。