パソコンやスマホはある意味、脳に楽をさせてくれる。固有名詞が思い出せなくても検索すればいいし、覚えるべきことも写真を撮って後から見ればいい。地図が読めなくてもGPSがあれば目的地にたどり着ける。つまり、情報を覚えたり思い出したり、深く考えたりという「脳が本来やるべき仕事」をする機会が奪われているのだ。

 さらに、オンライン中心の生活は、メールなどの文字情報の確認、ネットでの調べもの、オンライン会議など「視覚過多」の状態。もともと人間は情報の8割以上を視覚から得るといわれているが、オンラインではその傾向がさらに強くなり、視覚以外の五感が使われない傾向がある。

「私たちの脳は視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の五感を通じて情報を『インプット』し、前頭葉と呼ばれる場所で情報を取捨選択して『整理』を行い、言葉や行動として『アウトプット』しています。視覚からのインプットばかりが多くなって脳の整理が追い付かず、脳がゴミ屋敷のようになっていくのです」(奥村医師)

 この「情報メタボ」ともいうべき生活を長く続けていると、物忘れや記憶力の低下、思考力や集中力、コミュニケーション力低下などの症状が表れ、うつ病につながることもあるという。また、脳過労を訴える患者のほぼ全員が、寝つきが悪い、眠りが浅いなどの睡眠トラブルを抱えていると指摘する。

「睡眠時、脳内では、疲労物質を代謝したり、脳細胞を修復したりといったメンテナンス作業が行われていますが、最近の研究では、認知症の原因物質となるアミロイドβを除去する作業が、寝ている間に進められていることもわかっています。睡眠トラブルは脳の衰えと将来の認知症リスクに直結します」(同)

 夜間のスマホやパソコンの利用が、睡眠を防げているという。

 脳の疲労はいつの間にか蓄積し、放っておくと深刻な状態に発展することも多いという。起きている間はずっとデジタル機器を使っているという人は注意が必要だ。解消するには、スマホやパソコンなどから一定期間離れる「デジタルデトックス」が有効だが、実行できない人も多い。奥村医師は言う。

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