作家・北原みのり氏の連載「おんなの話はありがたい」。今回は、間もなく幕を下ろす安倍政権について。安倍晋三首相が辞任を表明した後に支持率が上がったが、北原氏は数々の疑惑や負の遺産をなかったことにはできないと訴える。
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私が40歳になった時、当時85歳だった祖母は「おめでとう。40代って、人生で一番楽しいよ。仕事も恋愛も」と教えてくれた。実際祖母の40代はよく働き、そしてよくもてたそうだ。私は祖母が45歳の時の孫娘だ。幼い私の目から見ても、旅館の女将として大勢の人の上に立ち、采配を振るう祖母は、堂々と格好良く美しい人だった。
さて私の40代はもうすぐ終わる。この10年が「人生で一番楽しかった」かどうかは70代くらいにならないと分からないのかもしれないが、心から残念なのは私の40代のほとんどが安倍政権だったことだ。というか人生のほぼ5分の1が安倍政権……嫌すぎる。仕事や出会いに恵まれている人生だとは思うが、こんな政権でなければ、こんな悔しさを味わうことはなかったのではないか……という傷がたくさんついた。そう、安倍政権の8年間、社会への安心と信頼を失うに十分な時間になった。
沖縄の声を全く聞かない強硬な姿勢。「慰安婦」問題をずっと否定し続けたあげく、被害者の頭ごしに取り交わした「日韓合意」。オリンピックを招致するために「(原発事故の放射能汚染水は)アンダーコントロール」と国際社会に向けて堂々とついたうそ。死者まで出した森友学園問題で説明責任を果たす姿勢も見せず、加計学園、桜を見る会の件もうやむやのまま。公文書は、情報開示請求をしても真っ黒で出てきたり、破棄されたりするのがフツーに見えてくる異常な状態。
だいたい「女性活躍」をうたってはいるが、2003年に内閣府が決めた202030(2020年までに社会のあらゆる分野で指導的地位に女性が占める割合を少なくとも30%にする)の目標を全く守ろうともせず、国会では女性議員(特に福島みずほさんや辻元清美さん)の質問にばかにしたような姿勢で臨み、女性蔑視を隠さなかった。財務省の福田淳一事務次官(当時)がセクハラで問題になった時、「セクハラ罪という罪はない」という麻生太郎副総理の発言をとがめることもなく、2013年に週刊誌でベトナムでの買春が報じられた西村康稔経済再生相(当時は内閣府副大臣、本人は否定)を重用し続けている。