イスラエルにおいて国交正常化への期待はとても高く、UAEとの国交正常化が、カタール、サウジアラビア、スーダンを含むアラブ世界のほかの国へもつながるのではないかと期待しています。政治的な良い話である一方で、秘密の取り決めがあるという話も出ています。イスラエルとUAEの平和条約は、米国にUAEに対して米国製F35戦闘機を売るという道を開いたのです。イスラエルは自国に使われるかもしれない最新兵器のアラブ諸国への売却に強く反対し、自国に対する脅威を取り除いてきたのです。イスラエルとユダヤ人ロビイストたちの同意なくして、F35の売却は米国議会では承認されないでしょう。しかし今では大量のF35売却が可能になりました。
イスラエルとUAEの国交正常化は、紛争という大海における一滴にすぎないのかもしれません。中東には解決すべき多くの敵対する問題があります。イスラエルとパレスチナの領土問題、トルコとクルドなどの民族問題、シリアとレバノンの民族対立、イランの核開発疑惑、イエメンの内戦、テロなどいずれも中東における人権と民主主義の欠如が問題なのです。とはいえ、今回の正常化は平和への長い道程の小さな一歩になるかもしれません(そう期待しています)。
〇Nissim Otmazgin(ニシム・オトマズキン)/国立ヘブライ大学教授、同大東アジア学科学科長。トルーマン研究所所長。1996年、東洋言語学院(東京都)にて言語文化学を学ぶ。2000年エルサレム・ヘブライ大にて政治学および東アジア地域学を修了。2007年京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科修了、博士号を取得。同年10月、アジア地域の社会文化に関する優秀な論文に送られる第6回井植記念「アジア太平洋研究賞」を受賞。12年エルサレム・ヘブライ大学学長賞を受賞。研究分野は「日本政治と外交関係」「アジアにおける日本の文化外交」など。京都をこよなく愛している。