安倍晋三首相(65)の辞任表明は、新たな権力闘争の号砲となった。政界のキーマンは、それぞれの思惑に戦略を練る。岸田文雄政調会長、石破茂元幹事長、菅義偉官房長官の3人の中で最後まで生き残るのは誰か。自民党バトル・ロワイアルの幕が上がった。
菅氏は7月に出演したテレビ番組で、今秋の衆院解散について「なかなか難しいのではないか。コロナ(対策)に専念してほしいというのが国民の声」と発言。首相の専権事項である解散権に縛りをかける表現は、官房長官として踏み込んだ行為だ。安倍首相が体調を崩した後、積極的にメディアに出演したことも「総裁選への地ならしか」と憶測を読んでいた。
ただ、自民党国会議員394人のうち、無派閥議員の一部を占める「隠れ菅派」は約30人。安倍首相の出身派閥である細田派の97人に比べれば党内での影響力は弱い。
浮沈のカギを握るのは二階俊博幹事長だ。最近は定期的に会食を重ねるなど親密で、後ろ盾になると思われてきた。
「二階さんは自分と同じ地方議員からのたたき上げの菅さんにシンパシーがあるようで、評価は高い。一方で、『自分の派閥を持っていない。子分がおらん』『(仮に首相になっても)派閥の後ろ盾がないときついよ』とも繰り返し言っていた」(ある自民党幹部)
その二階派は、菅氏支持を早々と打ち出して総裁選の機先を制した。派閥の後ろ盾の弱い菅氏にとっては、党内の実力者からの支援は喉から手が出るほど欲しかったはずだ。
もともと、次期首相の「大本命」は、かねて安倍首相が禅譲を意図していた岸田文雄政調会長だ。岸田氏の派閥である宏池会の関係者が言う。
「実は、岸田さんは次の党役員人事で幹事長を打診されていた。幹事長になれば、岸田さんを支える人を固めないといけない。それで内密に人選を進めてきた。それが、辞任発表の前日深夜に、幹事長人事が保留になったんです。岸田さんは、そのときに安倍さんの辞意を聞いていた可能性もある」