そのためか、韓国メーカーの家電製品はよく故障します。しかし、サムスンはこれすら逆手に取って、顧客の囲い込み(ロックイン)戦略を徹底しています。

 国内のあちこちにサムスンのサービスステーションがあり、故障した商品を持っていくと、美人の女性スタッフが笑顔で迎えてくれます。他社製品の不具合を相談しても、快く引き受けてくれる。そのあたりは適当主義の良さで、顧客をますますサムスンのファンにさせるのです。

 もうひとつ、日韓で大きく異なるのは経営者のありかたです。日本の経営者に話を聞くと、企業戦略について、自分の言葉で語れない人が多いと感じます。いわゆる「殿様経営」で、存在するけれど君臨はしない、お飾り的なトップが多いからでしょう。

 韓国はこれとは対極の「皇帝経営」で、オーナーの権限は絶対です。儒教の国ですから、家族にしろ、国にしろ、長の命には、たとえ間違っていても従う習慣がある。日本人にはない軍隊経験がある点も重要です。軍隊は完全にトップダウンですから、部下は一致団結して従う暗黙のルールが会社にも当然のようにあるのです。

 ただし、いくら皇帝が全権を握っていても、一人ですべて決めることは難しい。そこで韓国の財閥グループが採用しているのが「三極経営」の仕組みです。

 頂点の「一極」にオーナーが君臨します。「二極」は秘書室ないしは戦略企画本部で、「三極」が各社の経営者です。日本で秘書室は殿様の付き人のような役割ですが、韓国の秘書室は規模も大きく、グループ経営の中核を担います。

 秘書室には、各社から将来の経営者候補が送り込まれ、”参謀本部”として、オーナーの意思決定をサポートする。日本企業にとって大いに参考になるでしょう。

 とはいえ、韓国企業と日本企業では歴史の厚みが違うことも確かです。

 「外華内貧」という言葉が韓国にあります。文字どおり、外見は華やかでも中身は貧相という意味です。

 サムスンの経営トップは毎年、日本の取引先企業へのあいさつ回りを欠かしません。韓国の大企業の多くは素材・部品の大半を日本からの輸入に頼っており、日本のメーカーが輸出を止めれば、工場が止まってしまうからです。

 近年、日本の大企業で韓国の学生を採用する動きが活発です。日本では学生の内向き志向が問題となっていますが、韓国の学生は語学も得意で、リュックひとつで海を渡ります。日本の若者が海外へ行きたがらないなら、海外の現地法人のオペレーションを韓国人に任せるのも手でしょう。

 このように日韓はさまざまな点で補完しあえます。もともと、これほど感覚的にわかりあえる国はほかにありません。韓国企業の脅威論ばかりで終わらせず、互いの強みを生かしあえば、日韓は世界最高のパートナーになりうるのです。  (構成 本誌・佐藤秀男)

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キム・ヒョンチョル 1962年生まれ。ソウル大学国際大学院教授。同大学大学院を卒業(MBA)後、91年に来日。慶大大学院経営管理研究科博士課程修了。ハーバード・ビジネススクール客員研究員などを歴任、韓国に帰国後はサムスン電子や現代自動車などの経営顧問を務めたほか、トヨタや新日鉄など数多くの日本企業のマーケティング教育にも携わる

週刊朝日

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