一つは、日本中を席巻した事件について、当事者の「肉声」を世に伝え、それに基づいて「真相」を明らかにすることだ。

 もう一つは、彼女がいかに薬物に触れ始め、やがて使用の頻度を増やしたのかを、これも当事者の証言をもとに明らかにすることだ。

 いずれも世の知る権利に応えるものだと思うが、それでも『贖罪』は執行猶予が明けるのを待ってから出版されるべきだったのだろうか。

 最初の原稿を書き上げてから、酒井は何度も推敲を重ねた。自分にとって不利な事柄でも隠すことはなかったが、記述によって傷つく人がいないようにと最大限の配慮を尽くし、表現や言葉づかいには納得がいくまでこだわり続けた。それで「人のせいにしている」と責められることも、酒井は覚悟していたことだろう。

『贖罪』は著者や版元の予想をはるかに超えて売れている。発売から1週間で2度の増刷が決まった。

 ある大手書店チェーンによると、30代から40代の客層が購入者の5割ほどを占め、うち半数以上を女性が占めている。

 同世代の女性たちからは、編集部に手紙が届き始めている。12月11日現在、出版を非難する内容はなく、どの手紙にも酒井への励ましや共感がつづられている。

〈この本には、のりピーのことが良いことも悪いこともずっしりつまっていて、ひと文字ひと文字がとても重く感じました〉

〈薬物や逃亡した事などは決していい事ではありませんが、反省しているのも分かりました。これからは、もう二度と薬物をしないで下さい。絶対に裏切らないで下さいね〉

〈人生の出来事は全て意味を持っている。向かい風もあれば、追い風もありますよ! 本を読んだら、手紙を書きたくなりました。私みたいな一般人では力を貸す事もできませんが、陰ながら応援しています〉

 読後の感想だけでなく、自身が酒井の歌やドラマをこれまでどんなふうに体験したか、自身が実生活でどんな悩みや苦労を抱えているかも、縷々書かれているものが多かった。

 手紙の一部に目を通してから、酒井はこう語った。

「本当なら批判されて当然なのに、お礼とか、激励とか、温かい言葉ばかりで、ありがたいなと思います」

 巷の関心は、芸能界への「復帰」があるかどうかに向けられているが、酒井自身は特段、何の予定も見通しも立てていない。昨年秋から4年間の予定で、介護の勉強に励んでいる。息子との生活を第一に考えながら、どう生きるべきかを模索している最中だ。

「これからの自分に何ができるのかは、今はまだわかりません。自問自答しながら、前を向いて歩いていくしかありません」

 自著に描かれた酒井の半生は、人に手を引かれたり影響を受けたりしながら歩むことの多かった道のりにも映る。自ら選択して決断する場面が少なく、その"受け身"の姿勢や歩み方も、批判を招く一因となっているのかもしれない。

『贖罪』というタイトルには、「善い行いをすることによって罪を償う」という想いが込められている。
 自叙伝を出版したことについて、酒井は最近、こう語っていた。

「出す直前までは、これで大丈夫なのかな、と迷うことがありました。でも、今は出してよかったと思っています」

 再生を目指して踏み出した最初の一歩。その先に続く身の振り方は、自身で選択し、決断して進んでいくしかない。   (本誌・藤田知也)


20101203_shokuzai.jpg

「贖罪」(酒井法子・著/朝日新聞出版・刊) 


週刊朝日