緻密なブレーク戦略を語ったフワちゃん(写真/岡田晃奈)
緻密なブレーク戦略を語ったフワちゃん(写真/岡田晃奈)

 テレビ東京の『あちこちオードリー』は、ゲストが普段テレビで言わないような本音をポロッと漏らしてしまう番組として知られている。9月15日深夜の放送回では、ゲストとして出演していたフワちゃんが、自身がブレークしたきっかけについて聞かれて、日本テレビの大型特番に出たことだと語っていた。多くのバラエティ番組の偉い人が集まる特番で結果を出したことで、その人たちに認められてブレークにつながったのだという。

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 ここで彼女は「狙いは賞レースより日テレ」という名言を残していた。この言葉の意味はじっくり考える価値がある。芸人がテレビでどうやってチャンスをつかめばいいのかということについて、本質的な洞察が含まれているからだ。

 ほとんどすべての芸人は「売れたい」と思って業界に飛び込んでくる。売れるにはテレビにたくさん出たい。しかし、ただぼんやりと活動を続けていてもテレビに出るチャンスはなかなか得られない。

 無名の若手芸人にとって、テレビに出るための公平な機会として用意されているのが『M-1グランプリ』や『キングオブコント』などの賞レースである。

 賞レースでは、ネタが面白いと認められれば、それだけでゴールデンタイムのテレビ番組に出られて、そこで自分たちのネタを披露することができる。

「テレビでネタを披露」というのは言葉にするとシンプルだが、その意義はきわめて大きいものだ。芸人はネタを演じている間だけは自分たちだけの世界を作ることが許される。誰にも邪魔されずに、3~4分の間、テレビの枠を独占できる。生き馬の目を抜くテレビの世界でこんなチャンスは他にめったにないのだ。

 特に『M-1』は注目度が段違いに高いため、そこで結果を出すと、一気にブレークする可能性がある。優勝すればいいというのはもちろん、たとえ優勝できなくても、それに近い強いインパクトを残せばいい。

 実際、昨年の『M-1』は例年にない盛り上がりを見せた。決勝に出た全組が得をした大会だったと言えるのではないか。通常、目立つのは出たうちのせいぜい2~3組ぐらいなのだが、昨年はその数が多かった。

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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賞レースだけを目標にするにはリスクが