作家の池井戸潤さん(撮影/写真部・加藤夏子)
作家の池井戸潤さん(撮影/写真部・加藤夏子)
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『半沢直樹 アルルカンと道化師』(講談社)(撮影/写真部・加藤夏子)
『半沢直樹 アルルカンと道化師』(講談社)(撮影/写真部・加藤夏子)

 大ヒットドラマ「半沢直樹」の原作者、池井戸潤さんが、9月30日発売のAERA増刊『AERA Money 今さら聞けない投資信託の基本』の巻頭インタビューに応じた。一部抜粋してお届けする。

【写真】「探偵半沢、絵画の謎に挑む。」



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 取材会場の机の上に一冊の画集。

「この絵、いいなと思って。色が、とてもよかった」

 池井戸潤さんの6年ぶりの新刊『半沢直樹 アルルカンと道化師』では絵画が重要なモチーフとなる。そのインスピレーションを得た油彩が載っていた。

 アンドレ・ドラン(1880~1954年)の《アルルカンとピエロ》。アルルカンもピエロもイタリア喜劇では定番キャラクターで、西洋画家たちが好んで描いてきた。ずる賢く強欲なアルルカンと純粋かつ愚直なピエロの対比は、観る者の想像力をふくらませる。

 池井戸さんはドラン作品を鑑賞した際、「ペテン師と詐欺師」というハリウッド映画が原作のミュージカルを思い出した。ペテン師と詐欺師が人をたらし込む力量を競い合う、軽妙なコメディーだ。日本では石丸幹二さんと山田孝之さん主演で昨年上演され、話題を呼んだ。

「日本版のミュージカルもとてもおもしろかったんですが、タイトルの付け方がユニークだと思って。原題は『Dirty Rotten Scoundrels』(編集部注:ひどく下劣な悪党)で、全然違う。そして、ペテン師も詐欺師も、意味は一緒。なかなかしゃれたタイトルですよね。そこで僕も、『だましだまされ』がおもしろい構図のミステリーを書けないかな、と思ったのが、今作の出発点です」

 「半沢直樹」シリーズの単行本としては、2014年の前作『銀翼のイカロス』以来。

「6年も経ってしまいましたか」

 と池井戸さんは表情を緩める。

 当初は東京中央銀行に勤める主人公・半沢の同期行員、渡真利(とまり)忍を主人公としたスピンアウト作品を構想していた。渡真利は半沢と同じ慶應義塾大学の同窓生で、行内きっての情報通という設定だ。

「150ページほど書いたのですが、どうもうまくいかなかったので、残念ながらボツにして、半沢を主人公に一から書き直しました」

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新作「半沢直樹」のストーリーは?