子どもを中心に今年、急増したマイコプラズマ感染症。いまいちばん問題なのが、耐性菌の増加だ。10年前からそれを警告してきた病原微生物の研究者、北里大学北里生命科学研究所の生方公子(うぶかた・きみこ)特任教授は、子どもの第一選択薬の見直しを訴える。
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マイコプラズマ感染症は気管支炎と肺炎が中心ですが、肺炎でも多くは軽症から中等症で、「歩く肺炎」とも言われます。これまでマクロライド系抗菌薬が非常に優れた治療薬であったため、入院せずに外来でも治療可能でした。ところが13年前にこの薬が効きにくい耐性菌が出現しました。いまでは、当研究室に依頼される子どもの検体の約9割から耐性菌が検出されます。
マクロライド系が効かない場合、欧米ではテトラサイクリン系のドキシサイクリンが使われますが、日本で子どもに使えるのはミノサイクリンのみです。しかも、歯の変色を懸念して、8歳未満には控えたほうがよいとされています。
米国では現在、耐性菌は10~15%と報告されていますが、最新の感染症治療ガイドでは、すでに第一選択薬がマクロライド薬からドキシサイクリンに変更されました。日本でも、少なくとも子どもについては、どのような薬をどのくらいの日数投与するのが最適か、検討する時期に来ています。
マイコプラズマ感染は、保菌者の咳やくしゃみで飛んだしぶきを吸い込むことで起こります(飛沫感染)。そのため、学校や家庭など人の集まる閉鎖的な空間は感染しやすいといえます。
学校などで菌をもらった子どもから家族が感染し、職場に菌を持ち込むといった具合に感染は拡大します。症状が軽いため、咳が残っていても熱が下がると学校や職場に行きがちですが、それが感染を広げる原因になります。咳が出る間は必ずマスクをし、咳エチケットを心がけてください。
※週刊朝日 2013年1月18日号