頭頸部がんとは、脳の下から鎖骨の上までの範囲にできたがん(脊髄と眼を除く)の総称だ。そのひとつである「咽頭(いんとう)がん」は、がんができる場所と進行期により治療方針が異なる。咽頭がん治療の最新動向を専門医に聞いた。
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「咽頭」とは、鼻の奥から食道までの、空気や飲食物の通り道となる部分。嚥下(のみ込むこと)や発声、構音(言葉として発音すること)など、生きる上で重要な機能を担う部分であり、がんの治療により、それらの機能が損なわれる可能性がある。北里大学病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科教授の山下拓医師はこう話す。
「治療選択には、生存率や治癒率に加え、いかに機能が温存され、治療後のQOL(生活の質)が保たれるかという指標が重要になります」
頭頸部がんの約4割を占める咽頭がんは、がんができる部位により「上咽頭がん」「中咽頭がん」「下咽頭がん」に分かれ、それぞれで治療方針が異なる。上咽頭がんは、脳に近く手術が難しい部位であること、放射線や化学療法の効果が得られやすいことから、放射線治療もしくは化学療法と放射線の併用療法(化学放射線治療)をおこなう。
中咽頭がんと下咽頭がんでは、手術と化学放射線治療はほぼ同等の治療成績とされている。中咽頭がんでは、がんの部位や大きさ、広がり具合、転移の状態などと機能温存、患者の希望などを考慮した上で、手術か化学放射線治療かを選択する。
ただし、中咽頭がんの治療方針は、将来変わる可能性があるという。一般的に、咽頭がんは飲酒や喫煙がリスク因子といわれるが、中咽頭がんにはウイルスが原因で起こるものもある。ヒトパピローマウイルス(HPV)という、子宮頸がんの原因などとしても知られるウイルスが、中咽頭がんの発症にも関与していることがわかっている。
「HPVによる中咽頭がんは比較的若年者に多く、放射線や化学療法が効きやすく予後が良好であることがわかっています。そのため、HPVによる中咽頭がんでは、治療の強度を落として機能温存を図るための研究が進められています。将来的には、放射線量の低減や、使用する抗がん剤の変更、手術方法の変更など、より程度の軽い治療へと標準治療が変わる可能性が考えられます」(山下医師)