河瀬:ドラマでも「僕、パパとママの子じゃなかったの?」みたいなシーンがありますけど、真実告知が基本なんですよね。

辻村:実際には実親が養親の現住所など個人情報を知ることはないのでそこは小説上のフィクションですが、子どもたちは「もう一人お母さんがいるんだよ」と聞かされて育ち、団体を介して手紙のやりとりや交流があったりする。映画にも実際の養親さんたちが登場しますよね。みなさんのお話から「産みのお母さんがいるからこそ、この子に会えた」という意識が大きいのだと知りました。

――朝斗を産むのは14歳のひかり。佐都子たちに震える声で「よろしくお願いします」と赤ん坊を手渡した。しかし、いま夫婦を訪ねてきたこの女性は本当にひかりか? ミステリー要素をはらみつつ、河瀬監督はひかりの物語も丹念に描いていく。

■命を囲んだつながり

河瀬:これまで日本では養子縁組を取り囲む状況にどこか差別意識があったと思うんです。養子縁組した親子になにか問題が起こると「あの子はもらわれっ子だから」「親子じゃないから」などとネガティブな見方をされる。でも問題なんて実の親子でも同じように起こるんですよ。

辻村:本当にそうですよね。養子と養親に問題が起こった場合を想像したとき「頭ごなしに怒ったりせず、より対話をしようとするんじゃないか」と考えたんです。一方で出産後のひかりと家族の関係が難しくなるのは「血のつながり」ゆえの甘えや残酷さかもしれない。

――映画には特別養子縁組のあっせん団体「Babyぽけっと」が全面協力している。

河瀬:Babyぽけっとは出産をする母親のシェルターの役割もしている。ひかりのような実母と養親を会わせることもケースに応じてあるようです。

辻村:この物語を書くにあたって「母になるって、なんだろう」と考えました。書きながら強く実感したのは、産んでいなくても佐都子はやっぱり「母」だということ。朝斗を育てる日々を通じて、自分の娘ほどの年齢のひかりをもまるごと受け止められるほどの「母」になっているんだと、著者であっても佐都子に教わるような気持ちでした。

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