「特別養子縁組」をテーマにしたヒューマンミステリー「朝が来る」。辻村深月さんの原作を河瀬直美監督が映画化した。母である二人が考えた、母になるとは、家族とは──。河瀬監督と辻村さんが語りあった、AERA 2020年10月19日号の記事を紹介する。
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――都心のタワーマンションで暮らす佐都子(永作博美)と清和(井浦新)と6歳の息子・朝斗。一家の幸せな日々が、ある訪問者によって一変する。「子どもを返してほしいんです」。朝斗は、不妊に悩んだ二人が「特別養子縁組」で迎えた子なのだ。
河瀬:映画のプロデューサーから原作を教えてもらったんです。私自身が養子なので、家族や血のつながりを見つめることはライフワークでもある。自分事としてこの映画を作ることができるんじゃないかな、と。
辻村:初対面のときホテルのロビーで監督が名刺交換をするより先に「映画には息子である朝斗のまなざしが必要不可欠だと思っています」とおっしゃった。「いきなり本題!? これが世界の河瀬直美か!」って。
河瀬:あはは。
■産みの母がいるから
――特別養子縁組制度は1987年に開始。里親制度などと違い、戸籍上も養親の子と記載される。
河瀬:私は制度ができる前、10歳で母の伯母夫婦に養子縁組されたので、戸籍上は「養女」。伯母夫婦は母親世代ではなくあきらかにおじいちゃん、おばあちゃん世代だったので周囲も「あそこは養子さんね」と知っていたけれど、自分にはどこか「それは内緒のこと」という感覚がずっとありました。書類上で実際に親子であることは、想像以上に子どもにとっても大きなことでは、と感じます。
辻村:特別養子縁組というテーマは担当編集者からの提案だったんです。ちょうど上の子が2歳のときでした。自分は血のつながりにこだわらないし、養子にも抵抗はないと思っていたのですが、資料を読み込むうちに実は先入観を持っていたのだと気づかされました。まず養子であることを子どもに極力隠すのでは?と思っていたのですが、縁組を仲介する民間NPO団体はほとんどが早い時期から子どもに事実を話す「真実告知」を推奨していることに驚きました。