「それまでは発見されても1~2個体だった羽のある女王アリが、数十匹単位で見つかりました。産卵可能な女王アリが飛散した可能性も考えられます」
環境省では、中国や台湾などからの定期コンテナ航路を持つ全国65の港湾で、夏と秋の2回、一斉調査を行っている。見つかった個体は殺処分するが、巣を直接破壊すると女王アリが飛散する危険があるため、毒餌を置いたり、殺虫剤を散布したりして対処する。完全に駆除できたかジャッジすることは難しく、昨秋の青海埠頭の事例では今年8月まで薬剤の散布を続けた。
「観察結果から、営巣箇所は駆除できていると考えています。一方、どの段階で駆除できたのかは正直わからない」(環境省)
■米では年1兆円の被害
女王アリが港湾を出て新天地で繁殖を始めれば、拡散を防ぐのは段違いに難しくなる。環境省では、ヒアリが飛ぶとされる半径2キロを超える範囲でモニタリングを強化して調査を続けている。今のところ市中で巣をつくって繁殖している痕跡はないというが、こんな懸念もある。
「ヒアリはアンダーグラウンドでひっそりと数を増やし、巣を広げていく。そして対処不能な勢力になって目の前に現れます。仮に港湾から出て繁殖していたとしても、今の段階で見つけるのは困難です」(五箇さん)
自治体レベルでヒアリを察知するセクションを設け、環境省などと連携して長期の監視を続けるしかないという。
米国ではヒアリによる被害額と対策費の合計が年間1兆円を超えるとされる。ひとたび定着すると爆発的な増殖力ゆえに駆除は困難。水際での攻防が続く。(編集部・川口穣)
※AERA 2020年10月19日号
![](https://aeradot.ismcdn.jp/mwimgs/a/9/800m/img_a9c5d20a10b6ccff0351bd20b310b106695431.jpg)
![](https://aeradot.ismcdn.jp/mwimgs/7/f/846m/img_7f5f1acd9ff6dba73e58abb737ecfe6c1502319.jpg)