![ヒアリの働きアリは体長2.5~6ミリ程度。ツヤツヤした赤茶色の体が特徴で、尻に毒針を持つ。今のところ港湾エリアでしか見つかっていないが、羽のある女王アリは通常1~2キロ程度を飛行して他の場所で繁殖する(写真:環境省提供)](https://aeradot.ismcdn.jp/mwimgs/b/6/840mw/img_b6ec154272ae21d72669fb19f557d406134803.jpg)
強い毒性と繁殖力を持つ外来生物「ヒアリ」の発見が各地の港湾で相次いでいる。羽のある女王アリも多数見つかり、国内への定着が強く懸念される。AERA 2020年10月19日号に掲載された記事で、攻防戦の現状に迫る。
* * *
9月17日、名古屋港で700匹。25日、同港で千匹。29日、横浜港本牧埠頭で数百匹。10月1日、東京港青海埠頭で500匹──。
今年も、日本各地で強毒性の外来アリ「ヒアリ」の発見が相次いでいる。2017年に初めて見つかって以降、1日までに16都道府県で60事例が確認された。初確認時は「殺人アリの襲来」と大騒ぎになったが、ここ最近はニュースの扱いも小さい。しかし、実はいま、ヒアリの定着を防げるかギリギリの攻防が続いている。
ヒアリは南米原産で、米国や中国、台湾、オーストラリアなどに定着している。刺されると、その名の通りやけどのような痛みが起こることが特徴だ。昆虫学者で国立環境研究所の五箇公一さんは、海外でヒアリに刺された経験をこう語る。
「数えきれないほどの大群が一斉に腕にまとわりついてきて、振り払う間もなく一気に刺された。火の粉をかぶったような、焼けるような激しい痛みでした」
■インフラも壊す厄介者
さらに、体質によっては強いアレルギー反応「アナフィラキシーショック」を起こすことがあり、米国などでは死亡例も報告されているという。
「人を刺す以外にも、農作物を食い荒らし、家畜に被害を与え、配電盤や電気ケーブルに巣をつくってインフラを破壊することさえある。爆発的に増加するので生態系にも壊滅的な打撃を与えます。外来昆虫のなかではナンバーワンの危険度です」(五箇さん)
ヒアリはコンテナに紛れて運ばれてくる。今のところ国内で見つかるのは港湾エリア内だけで、数世代にわたって繁殖した痕跡もないことから「定着にはいたっていない」とみられている。一方で昨秋以降、関係者は「明らかにフェーズが変わった」として、警戒を強める。
象徴的なのが、去年9~10月の東京港青海埠頭と、今年9月の名古屋港での事例だ。環境省の担当者はこう説明する。