その背景には、国内外を問わない多くの抗議の声がある。ドイツの前首相シュレーダー氏が妻と共に撤去撤回を要請する声をあげ、歴史学者など知識人がベルリン市ミッテ区を批判し、世界各国から少女像撤去への抗議の署名が届いたのだ。それは「少女像」が、戦時性暴力被害を訴えた女性たちの声を記憶するための像だからだ。女性の人権問題を問う象徴であり、戦争責任を隠蔽(いんぺい)しないための像だからだ。なによりこの「少女像」は正式な手続きを踏んだ市民団体が設置したものであり、日韓政府が口を出す類いのものではないからだ。

 それにしても今回、日本政府はかなり露骨に「もうこの問題は終わったんですよ!」「韓国運動団体の言い分だけ聞かないで!」と外国に向けて言い始めたことになる。これまで外国での「慰安婦」運動に対しては、その国々の領事館が抗議したり、草の根の愛国グループが体を張って抗議活動をやってきたりはしたが、ここにきて日本政府として、国際社会の表舞台で正式に「少女像」たたきの声をあげたのだ。

 今のところ、ベルリン市ミッテ区は少女像の当面の設置を認める方向に変わった。そもそも1年限定の設置だったというが、1年も我慢できずに菅政権が真っ先にやった仕事の一つが「少女像」つぶしとは、どういうことなのだろう。

 日本政府が「少女像」を隠蔽しようとすればするほど、「少女像」の意味が世界により広がっていくパラドックス。国際社会に向かって「少女像が私たちをおとしめているんです」と被害者意識で訴えるほど、加害性が問われる現実。今の日本の歪みが、外に静かに漏れ始めている。杉田水脈氏の存在は、そんな自民党政権の今を、実は象徴しているのかもしれない。

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表

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