青山学院大に通う学生時代にモダンジャズを知った彼は、ジャズ以外にロック、ボッサ、ソウルのレコードを買い漁り、マイナーとメジャーを行き交うコード進行やリズムを研究、洋楽の要素を歌謡曲に取り入れていった。彼の織りなすメロディーは歌謡曲というよりポップミュージックという方がふさわしい。
自分が影響を受けた音楽家にビートルズのポール・マッカートニーを挙げていることを朝日新聞の記事で知り、ラジオ番組にお呼びしようとしたが難しかった。「筒美さんは表には出ませんよ」。音楽業界のいろんな人に当たったが誰もがそう言い、結局叶わなかった。あくまで職業作曲家を貫いたということなのだろう。
松本隆さんと組んだ『木綿のハンカチーフ』が一番好きだ。松本さんの筆による恋人同士の切ない手紙のやりとりが、筒美さんのメロディーと相まって歌い継がれる永遠の青春ソングになった。この曲を歌った太田裕美さんから訃報を伝えられた松本さんは、「作詞家になった瞬間、目の前に筒美京平は立っていて、先輩と後輩であり、兄と弟であり、(中略)そして別れなければならない日が来ると、右半身と左半身に裂かれるようだ」とツイッターで追悼コメントを寄せていた。
延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。国文学研究資料館・文化庁共催「ないじぇる芸術共創ラボ」委員。小説現代新人賞、ABU(アジア太平洋放送連合)賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞
※週刊朝日 2020年10月30日号