イラスト 添田あき
イラスト 添田あき

 リモートワークよりもオフィスに出勤した方がアイデアは沸きやすい。そう実感する人もいるかもしれない。その違いは何か、そしてリモート下でもオフィス環境に近づくことはできないのか。「リモート改善」を特集したAERA 2020年11月9日号から。

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 在宅勤務のメリットを感じながらも、オフィスのよさを改めて感じた経営者は多い。

 横浜市や東京・お台場で開催した「うんこミュージアム」のプロデュース事業が話題を呼んだIT企業のカヤックでは、一時は社員の9割が完全リモートだったが、10月から社員に週3回の出社を推奨している。

 数々のクリエーティブ賞を受賞する同社は「面白法人」という名を掲げ、社員の自由な発想を尊重する企業風土が特長。にもかかわらず「週3出勤」を求める理由を、柳澤大輔社長はこう説明する。

「リモートでも業務は回るのですが、イノベーションが起きにくい。自由に意見を出し合うブレーンストーミングを通じて新しいものを生み出してきた私たちの強みが封じられてしまうんです」

 顔を合わせるのとリモート会議では何が違うのか。

「目の前にいる人と話をするとき、人は顔だけを見て全てを理解しているわけではなく、その人の存在感やエネルギー、周りの人の細かな反応なども含め感性をフルに使って理解しようと努めています。そうやって共感し合う中で面白いアイデアが浮かんだり、そのアイデアを軸に話がつながったりする。そうした目に見えない情報がデジタルでは拾いきれません」

 デジタルハリウッド大学の匠英一教授(ビジネス心理学)は、リモートよりオフィスの方が革新的なアイデアが生まれやすい理由をこう解説する。

「リモートでは、オフィスで起きる様々な出来事のような偶然のインプットが減って、注意の焦点が目の前の仕事にフォーカスされます。心理学的には『選択的注意』と言われる状態です。一方、新たな気づきやイノベーションには、インプットを増やして意識を分散させる『分割的注意』が不可欠です」

 柳澤社長が言う「顔だけを見ているわけじゃない」というのは、まさにこの分割的注意の重要さを示す言葉だ。

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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