AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
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岡崎京子による漫画『ジオラマボーイ・パノラマガール』が刊行されたのは1989年。昭和から平成に変わった年であり、それから30年後の2019年、令和を迎えた年に、瀬田なつき監督によるこの映画の撮影は行われた。
バブル景気に沸き、次から次へとビルが建設されていく時代背景は、オリンピックに向け建設ラッシュが続く東京の湾岸エリアへと置き換えた。瀬田監督は言う。
「人工的でちょっと殺伐とした雰囲気と、ビルの向こうに空が抜けていく感じが映像としては魅力的で、好きなんです。地に足がついていないというか、どこかフワフワした感じもありますよね。あの時期にしか撮れなかったものであり、変わっていく街をカメラに収められたらいいな、と」
16歳のハルコ(山田杏奈)は、橋の上で倒れていたケンイチ(鈴木仁)に一目ぼれする。大はしゃぎするハルコに対し、受験目前に学校をやめてしまったケンイチはそれどころではない。さらに勢いでナンパした大人っぽい女性に夢中になっていく。
脚本執筆中は、岡崎作品ならではの“しびれるせりふ”に何度もうなった。他愛もない言葉のやりとりだが、自分ではなかなか思いつかない、と感じるものも多かったという。思ったらすぐに動く、登場人物たちにも魅了された。
「ケンイチを例にとっても、『え、いきなり学校をやめるの?』なんて思うこともあります。自分自身はなかなかできないけれど、行動に移せる人たちは魅力的だな、と」
一方で、撮影を進めるなかで存在感が増していったシーンもある。たとえば、ハルコが突然出現したゴキブリたちを避けて飛び跳ねるシーン。「踊っているように見えたらいいな、と思っていた」というシーンは、オーディションで俳優たちに何度も演じてもらっていたこともあり、こだわりの詰まった印象深いシーンへと変貌した。
瀬田作品では、「女の子」という表現がしっくりくるような少女たちがみずみずしい輝きを放つ。「かわいらしい」という形容詞を超越した存在となり、それはそのまま作品の魅力となる。