たまたま進行がんを摘出できて病気を克服する人がいるのも事実だが、大きくならないがんを外科手術で取って抗がん剤治療などを受ければ、体に大きな負担がかかる。
人間の体の中では、1日に数千個のがんが発生しているが、免疫細胞ががん細胞を攻撃して死滅させている。
精神科医で内科医でもある和田秀樹・国際医療福祉大学大学院教授もこう言う。
「どのがんについても、治療したグループと放置したグループを長期間追跡した大規模比較試験はほとんど行われていないため、がん検診で死亡率を下げるというエビデンスはありません。50歳を過ぎると、がんにかかりやすくなるので、40代からがん検診をどうするか考えておいたほうがいいでしょう」
和田氏によると、前立腺がんや甲状腺がんなどが進行の遅い典型的ながんだという。
「高齢者医療をしていると、亡くなってから初めて見つかるがんはいっぱいあるのです。がんイコール取るものというのも決めつけだと思います」
特に高齢者の場合、胃がんで胃を全摘出したり3分の1を摘出したりすれば、体の栄養状態が悪くなる。一気に老け込んでしまう人も少なくなく、残りの人生のQOL(クオリティー・オブ・ライフ)も下がることがある。
女性のがん検診について見ていきたい。
乳がん検診は40歳以上の女性が対象で、2年に1度の受診が推奨されている。これまで、海外で多くの比較試験が行われたり論文が出されたりしているが、有効性を示したものはないという。グループ分けした後に検診群から乳がんの疑いがある人を除外したり、二つのグループで平均年齢が明らかに違っていたりしたからだ。このため、岡田氏は「乳がん検診の正当性を示した論文は一つもない」と言い切る。
子宮頸がんは、主に性交渉によるHPV(ヒトパピローマウイルス)の感染が原因で引き起こされる。ほとんどは免疫力で自然消滅するが、一部が残ってがん化することがある。岡田氏がこう語る。
「子宮頸がん検診も有効性が認められたものはありませんが、HPVワクチンは将来のがん発生を予防できるので、10代のうちに接種しておいたほうがいい」
以前と比べ、さまざまな治療方法も確立している。すべて“早期発見”と決めつける前に、役立つ検査かどうかも考えたい。(本誌・亀井洋志)
※週刊朝日 2020年11月20日号より抜粋