健康増進法に基づき、市区町村で実施しているがん検診(胃がん、肺がん、大腸がん、乳がん、子宮頸=けいがん)だが、なかには効果が期待できない検査があるようだ。
検査でがんが見つかって治療し、運良く回復する人がいる一方で、検査や治療で被る“不幸”もあるという。「過剰な医療」によって、かえって健康を損なうケースだ。
岡田正彦・新潟大学名誉教授がその弊害を語る。
「米国の場合、死亡原因の1位は心臓病、2位はがん、3位は呼吸器疾患です。ところが、本当はそうではなく、オーバー・ダイアグノーシス(過剰な診断)が原因だとする統計学者の論文が出ているのです」
がん検診が、まさにそのリスクがあるという。
「がんと診断されれば、不必要な薬の投与や不必要な治療によって、かえって命を縮めてしまう恐れがあるのです」
放射線被曝(ひばく)もその一つだ。肺がんや胃がんの検診では、X線を使うため、被曝は避けられない。
岡田氏が解説する。
「肺がん検診は、胸部X線による被曝線量0.05~0.1ミリシーベルト(mSv)で、体の正面から撮影するため、胃など他の臓器にも放射線がかかってしまいます」
特に、バリウムを飲む胃部X線は被曝量が多くなるという。
「胃は複雑な形をしているので、さまざまな方向から撮影します。被曝量は胸部の6~1千倍になります。高い量の放射線が胃だけでなく、咽頭(いんとう)や喉頭(こうとう)、食道、肺などがんになりやすい部位にも当たるのです。X線検査などが原因で後になって発生するがんを2次がんといいます。少なくとも胃部X線は廃止するべきです」
医療被曝の懸念はこれまでも指摘されてきたが、それでも実施するのは、がん発見のメリットのほうが上回ると考えられてきたからだ。岡田氏はこう言う。
「がん細胞と正常細胞は素人にも見分けられます。けれども、見つかった時点で助からないがん、放っておいても大きくならないがん、自然に消えていくがんがあり、見つかったがんがその後どんな運命をたどるのか、現代の医学ではその違いを見分ける方法はないのです」