「開戦の危機」――長らく平和を享受してきた日本で、ついにそんな言葉が現実味を帯びる日が来てしまった。東シナ海で起きた中国海軍の艦船による海上自衛隊へのレーダー照射は、明らかにこれまでの一線を越えた挑発行為だ。

 しかし、中国外交部の女性報道官は6日の会見で「私たちも詳細は分からない。主管部門に聞いてほしい」と、まるで他人事のような発言。一方、中国共産党の機関紙である人民日報系の環球時報は、ウェブサイトで「日本側の自作自演」と主張し、9日には中国政府もレーダー照射を「捏造(ねつぞう)」と全面否定した。

 中国問題に詳しいジャーナリストの富坂聰氏がこう語る。「報道官の発言は本音でしょう。外交部は政府内で低く見られていて、軍からの情報は上がってきません。飛ばし気味の『環球時報』はともかく、注目すべきは政府系の主要メディアが当初、この件について沈黙していたこと。知らなかったと見るのが自然ではないか」。

 軍事ジャーナリストの神浦元彰氏も、「現場の艦長レベルが暴走したのではないか」という見方だ。「一歩間違えば戦争になるような行為を、政府が指示するとは思えない。レーダーを数分間照射し続けたのも奇妙で、日本側に電波を解析され、今後、対抗措置をとられる恐れがある。自ら手の内を見せてしまったわけで、お粗末な行為です」。

 ここで神浦氏が着目するのは、中国海軍の「未熟さ」だという。「中国軍はあくまで陸軍が中心。海軍はここ10年ほどで急速に増強されたが、歴史を見ても日清戦争の黄海海戦以来、本格的な実戦経験がなく、遠洋航海の技術も乏しい。船はあっても人が育っていないため、国際的な常識が通用しない」。

 1996年には、中国海軍の潜水艦が米空母キティホークに魚雷の射程内まで接近し、急浮上する騒動があった。過去には日本だけでなく、アメリカにまで無謀な挑発を行っていたのだ。

週刊朝日 2013年2月22日号