VR認知症プロジェクトの様子(提供写真)
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 75歳以上に安楽死を勧める制度ができたら──。昨年公開されたフィクション映画「PLAN75」はリアルな現実と架空の近未来が重なって観る人の心をかき乱した。「映画のような社会を現実のものとしないために私たちに何ができるのか」。介護施設で高齢者を支える2人の専門家に聞いた。

【写真】「PLAN75」で衝撃的な主人公を演じた倍賞千恵子さん

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■「周囲に迷惑をかけてもいいんだよ」

●デイサービス・すまいるほーむ管理者 六車由実さん

六車由実(むぐるまゆみ)/ 1970年生まれ。民俗学者、介護福祉士、社会福祉士、大阪大学大学院博士(文学)。東北芸術工科大学芸術学部准教授を経て現職。2012年刊『驚きの介護民俗学』(医学書院)で第2回日本医学ジャーナリスト協会賞大賞受賞。
六車由実(むぐるまゆみ)/ 1970年生まれ。民俗学者、介護福祉士、社会福祉士、大阪大学大学院博士(文学)。東北芸術工科大学芸術学部准教授を経て現職。2012年刊『驚きの介護民俗学』(医学書院)で第2回日本医学ジャーナリスト協会賞大賞受賞。

 民俗学を教えていた大学教員から高齢者介護職員に転職して、13年になります。規模の大きな施設での勤務を経て、2012年、静岡県沼津市の小規模デイサービス「すまいるほーむ」に勤務し始めました。毎日、さまざまな困難を抱えた高齢者が集まって、ともに一日を過ごしています。

 利用者さんは、よく「周りや家族に迷惑をかけたくない」と言います。「迷惑をかけてもいいんだよ。いままで、頑張ってきたんだから」と伝えますが、子どものころからそう教わってきているからか、考えを変えることは、なかなか難しい。母も私自身も、できれば周囲には迷惑をかけたくないと思ってしまうタイプです。

 そのため、映画の主人公が「PLAN75」の制度で自死を選んでいくシーンは、これまでの介護経験や母のことが重なって心動かされ、涙が止まりませんでした。映画館からまっすぐ家に帰って、同居する母に「認知症になっても、何かできなくなっても、周囲に迷惑をかけてもいいから、絶対自分から死んだりしないでね。とにかく、生きてて!」と一気にまくし立てたほどです。母は「わかった、わかった」と、うなずいてくれました。

 すまいるほーむでは、仲間としてつながりを持っていくことで、自分が置かれた状況を自然と受け止めることができるようになっていくようです。

 運営の特徴は、何でも利用者さんたちと一緒に考え、取り組むことです。昨年は、死期が近い利用者さんの「世界の子どもたちのために何かしたい」という希望をかなえるためウクライナの国旗を手作りして平和への祈りを捧げました。利用者さんで作る「すまいる劇団」が思い出を取り入れた物語を演じることも。そんな日常に、地域の人にも関わってもらえるよう、老人会などにも声がけします。

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