また、認知症の人は、一人で部屋にいると落ち着かなくなります。そんなとき、階下に下りてきて、誰かに温かく声をかけられることで会話が生まれると、自分が悩んでいたことや「どこかに行かなければ」という強迫観念が消えてしまうものです。建物の中で、無理やり人と会話することが増えるよう、設計や運営に組み込んでいます。
高齢者住宅を地域に開放しています。特に近所の子どもたちが遊びに来たいと思ってもらえるような空間を作っています。
駄菓子屋を開いたり、本を貸し出したり。子どもたちは、必ずしも高齢者と話しているわけではありません。子どもたち同士で勝手に遊んだり、宿題をしたり、プレゼント交換をしたりしている。高齢者は、いつもその光景を見ていて、いつのまにか一緒に話している。関係性は自然に生まれています。
17年からは「VR認知症プロジェクト」を始めました。VR(仮想現実)で当事者が見えている世界、感じている世界、例えば、「送迎バスを降りるとき、どうして躊躇(ちゅうちょ)するか」「幻視はどのように見えるか」などを体験してもらいます。認知症の人の気持ちを想像する力を持つことが映画に対する一つの答えになればと考えます。

(医療ジャーナリスト/介護福祉士・福原麻希)
※週刊朝日 2023年2月10日号