デービッド・アトキンソン氏 (c)朝日新聞社
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本田悦朗・元内閣官房参与(撮影/西岡千史)
本田悦朗・元内閣官房参与(撮影/西岡千史)

 成長戦略会議の有識者メンバーに選ばれた元金融アナリストのデービッド・アトキンソン氏の提言により、「中小企業の再編促進」を唱えるスガノミクス。安倍政権のブレーンを務めた元内閣官房参与・本田悦朗氏は、その危険性を説く。

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 デービッド・アトキンソン氏の中小企業再編論は、経済をマクロから見る視点が欠けています。不況下で中小企業を再編しても、生産性は上がりません。

 たしかに、日本の労働生産性が低いのは事実です。OECD(経済協力開発機構)加盟36カ国中21位で、米国の3分の2しかありません。アトキンソン氏は中小企業が多いことがその原因だとして、著書では日本の経営者を「奇跡的に無能」と批判しています。

 しかし、日本の中小企業の生産性が低いのは、中小企業保護の行き過ぎもありますが、主たる原因はデフレが日本社会で長く続いているからです。

 デフレ状況のもとでは、将来不安から、消費も所得も増えません。十分な需要が見込まれないのに、生産性を上げようとする経営者はいないでしょう。投資よりも現金(内部留保)を持つことが最も合理的な判断なのです。

 逆に、インフレの状況ではどうなるか。需要が旺盛で商品の注文が増えれば、経営者はそれを見越して事業拡大の投資をします。投資に成功した企業は収益が上がり、労働生産性も上昇します。一方、生産性が伸びない中小企業は淘汰(とうた)されます。これが“正常”の経済状態です。

 アベノミクスが「デフレ脱却」を訴えたのも、この認識があったからです。しかし、安倍晋三政権で2度の消費増税をしたことによって、デフレからは完全に脱却できていません。そこに新型コロナウイルスが世界を襲いました。

 この状況で中小企業の再編をすればどうなるか。まず失業者が増え、賃金が下落し、人々はさらに消費を控えます。モノは売れなくなり、結果的に中小企業の労働生産性はさらに下がる。日本経済は大打撃を受けます。

 菅義偉政権で心配なのは、アトキンソン氏のように、経済をミクロの視点から語るブレーンが多いことです。ミクロをいくら足し合わせてもマクロにはなりません。

 不況になると、「従業員を解雇しやすい制度に変えてほしい」と訴える経営者もいます。ですが、マクロの視点から見て新型コロナで年換算数十兆円の需要が不足しているときにやってはいけない。正しい政策でも「いつやるか」を間違えると取り返しがつきません。

 現在やるべきことは、金融緩和を続けた上で、財政出動をして需要不足を解消すること。とくに医療関係者や新型コロナの影響で給料が減った人などを、積極的に支援することが大切です。それが人の命を救い、結果的にデフレ脱却にもつながるのです。

(本誌・西岡千史、浅井秀樹/今西憲之)

週刊朝日  2020年11月27日号