AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
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パレスチナを巡るイスラエル人とパレスチナ人の物語は、これまでも多くの映画のなかで描かれてきた。だが、「エイブのキッチンストーリー」はそれらのどの作品とも似ていない。物語を貫くのは12歳の少年エイブの真っすぐな視線であり、彼が抱く疑問を通して、観客も豊かで複雑な世界を知ることになる。
米ブルックリン生まれのエイブ(ノア・シュナップ)は、イスラエル系の母とパレスチナ系の父を持ち、宗教や文化の違いから生まれるすれ違いに悩まされる日々を送る。ある日、エイブは世界各地の味を掛け合わせてつくる“フュージョン料理”を手がけるブラジル人シェフのチコ(セウ・ジョルジ)に出会う。料理好きなエイブは、自分にしかつくれない料理で、家族を一つにしようと奮闘する。
監督のフェルナンド・グロスタイン・アンドラーデ(39)は、ユダヤ系とカトリック系の両親を持つ。それぞれが2度目の結婚だったため、義理のきょうだいを含め多様なバックグラウンドを持つ人々に囲まれて育った。
「珍しいケースだったけれど、クリスマスなどにみなでテーブルを囲むのはとても楽しい時間だった。でも同時に、『こんなに楽しい時間を過ごせるようになるまでに、自分の家族はどれだけの問題を乗り越えてきたのだろう』という気持ちもあった。そうした想像力を働かせながら脚本を書いていったんだ」
物語を生むうえで大切にしたのは、「パレスチナ人の苦しみに対して誠実でいたい」ということだった。そのため、脚本の第一稿は自身で書き上げたが、パレスチナ系アメリカ人の脚本家にリライトしてもらったのだという。
「パレスチナ人は自分たちの住む場所を失い、大きな苦難を経験したということを知っているからこそ、ユダヤ系の自分は彼らの文化をリスペクトしていきたいという気持ちがあった。それは、最初から最後までずっと意識していたことなんだ」