「頭痛ダイアリー」は日本頭痛学会のホームページからもダウンロードできる。記述したものを持参して頭痛専門医を受診すると、症状の説明がスムーズになる。まずは頭痛専門医を受診して、「頭痛ダイアリー」の記入方法について医師から説明を受けるのもいいだろう。
「頭痛の度合いや生活への影響は、患者さん本人にしかわかりませんので、克明に記入してあればあるほど、医師は診断に役立てることができ、その後の治療戦略においても大いに参考になります。『頭痛ダイアリー』に基づいて、ていねいにアドバイスをくれる医師に診てもらうのが良いと思います」
現在、片頭痛の治療薬は進化している。片頭痛は、セロトニンが減少し、そのことによって三叉(さんさ)神経が興奮して血管拡張物質を放出するために発症すると言われている。
セロトニンの減少に対して働くトリプタン系の薬が5種類あり、患者の病状に応じて処方されている。さらに最近では、抗CGRP抗体という三叉神経から放出される血管拡張物質自体を抑える抗体薬の治験が日本でもおこなわれた。米国ではすでに承認されている薬で、日本での保険承認が待たれている。
薬物療法以外にも、理学療法(体操指導)、作業療法(生活療法)、心理療法(心理カウンセリング)、ヨガ、鍼(はり)治療など、自分にとって必要と思われる治療を選択して、積極的に受けることも大切だと坂井医師は語る。
「大事なことは、自分で自分の病状をよく知り、生活をコントロールできるようになることです。自分の病状を管理できるようになると、精神的にも安定して、病状の改善にもプラスに働くと思います」
現在、さまざまな企業で“ヘルシーカンパニー”を目指す動きが活発になりつつあるという。これは社員の健康管理と企業経営を一体とする考えを導入する企業のことだ。社員の健康状況が業務成績に大きく関わることを鑑み、さまざまな施策を積極的に考えている優良企業のことを指す。
「そのような企業では、近年、片頭痛の予防に対する取り組みも重要と考えられています。企業においての片頭痛による欠勤はもちろんのこと、出勤してはいても仕事に対するパフォーマンスが著しく落ちてしまうということがさまざまな研究で立証されてきたためです。また、片頭痛は、WHO(世界保健機関)などが提唱する、損失生存年数という、ある疾患による障害で損失してしまう年数が多いという点でも注目されています」
“たかが頭痛、されど頭痛”が、世間に認知されるようになってきている。頭痛もちの人は、我慢をせずに症状を訴えて、早急にしかるべき頭痛専門医を受診してほしい。
(文・伊波達也)
【取材協力】
埼玉精神神経センター・埼玉国際頭痛センター長 坂井文彦医師