自販機ならではの利便さだが、ロケーションといい、パッケージデザインといい、奇をてらったゲテモノ販売という感じは微塵(みじん)もない。エコでおしゃれな自然食というスタイルなのだ。
5月に無印良品が「コオロギせんべい」を発売し、6月には東京・日本橋馬喰町に本格的なコース料理を楽しめる昆虫食レストランが開店するなど、昆虫食のおしゃれ化が著しい。とはいえ、まだまだ心理的なハードルは高いのも事実だ。
「その姿から気持ち悪いという先入観があると思いますが、アブラゼミなどは本当においしいですよ。成虫はカリッと素揚げに、幼虫は燻製にすると芳醇な味わいに……」
そうなのかなあと思いつつ、ほかの魅力も聞いてみた。
「国際連合食糧農業機関(FAO)は、昆虫を代替たんぱく質として推奨しています。小魚のように丸ごと食べられる昆虫は栄養満点。課題としては昆虫食を安定供給するには養殖が必須ですが、日本はまだまだ天然物と養殖物が曖昧な状態なんです」
確かに、イナゴや蚕の佃煮などは稲作や製糸業の副産物扱いとして生産されてきた。だが、昆虫を食べることを主目的で養殖するようになれば、伊藤さんの目指す新たなビジネスや食文化の創造につながる可能性があるかもしれない。
さらに昆虫食は食肉に比べて生産コストや育成期間が圧倒的に抑えられるので、国連がリードするSDGs(持続可能な開発目標)の食糧難対策などとの親和性も高い。そんな昆虫界のスターがコオロギなのだ。
「養殖のしやすさ、栄養価、味を含めてコオロギが抜群ですね。私たちが数ある動物の中から牛や豚、鶏に絞って食べているのと同様に、コオロギや蚕、ミルワームといった種類が昆虫食の中心になりつつあります」
あのコオロギが昆虫界の“牛肉ポジション”だとは驚きだ。形状はそのまんまというより、パウダーにして菓子や麺類に練り込んだ製品が多い。価格は500円から1000円程度。伊藤さんは「お求めやすい価格帯で売っています」と胸を張るが、気軽に買うにはちょっと高いと感じた。コスパのよい食品ではないが、「虫って意外とうまい」などとSNSで発信することも含めてのお楽しみだと考えれば納得か。何はともあれ、いくつか実食してみよう。