「コオロギっておいしいのかな」「スズメバチもあるよ」……下校中の小学生が興味津々にのぞきこむ自動販売機。ここは京王新線の初台駅(東京都渋谷区)から徒歩10分ほどの静かな住宅地。傍らには「昆虫食はじめました」と書かれたのぼり。セミやバッタのシンプルなイラストが可愛げな、昆虫の加工食品(昆虫食)を販売する自販機を発見した。
日本全国津々浦々、オモシロ系自販機は少なくないが、“虫モノ”は激レアな部類だろう。はたしてちょっと小腹が減ったから虫でも食べるか、という需要はあるのだろうか。
運営する「セミたま」の伊藤洋平さんに話を聞いてみた。「この自販機は、11月12日から稼働しています。昆虫食の自販機は全国に20台弱ありますが、国産(国内加工)品だけを扱うのはこれが初めてなんですよ」
インスタ映えしそうなタランチュラやカブトムシなどの“大物”は輸入品なのであえて扱わず、「日本の昆虫食ビジネスを創造したいから、国産にこだわりました」と話す。なんだか高尚な志がありそうだ。
伊藤さんは2016年に多摩市に多く生息するセミを使って地方創生ができないかと考え、「セミたま」というグループを立ち上げた。現在のコアメンバーは4人で、セミだけでなく昆虫食全般に関する情報発信やイベント、自販機運営を手掛け、将来的には事業化を目指している。
記念すべき第1号となるこの自販機は伊藤さんが100万円以上を負担して新品を購入し、親類の土地に間借りして設置したという。それこそ、ムシできない本気度だ。
「昆虫を食べる魅力を発信し続けることで、将来的には “昆虫食=セミたま”というポジションになれたらなと。まだまだ興味本位で買われる方が多いと思いますが、設置から4日間で80食ほど売れました」
意外にも売れ行き上々のようだ。ちなみに商品の仕入れ先は6カ所ほどで、仕入れ原価は6~7割だという。そんなことを聞いている間にも、次々と自販機をのぞきこむ人が現れた。
「昼間気になった人が、夜間に買いに来るケースも多いですね」