芸能界という華やかな世界に身を置く「アイドルとしての自分」と、入試という目標に向けて日々勉強に励む「受験生としての自分」。ときにはその二つの自分の切り替えがうまくいかず悩んだり、仕事にも勉強にも専念しきれないことを不安に感じたりもしたが「自分で選んだ道だから」と気持ちを奮い立たせた。

■ファンの応援が力に 合格で恩返ししたかった

「浪人生活に入った当初は、そのことをファンのみなさんに公表すべきか、すごく迷いました。でも思い切って公表したら、『勉強、頑張って!』と応援してくださって、本当にうれしかったです。応援が力になるってこういうことなんだと実感しましたし、そんなファンのみなさんに恩返しするためにも、絶対に第一志望の大学に合格したいと思いました」

 仕事の移動時間中、睡魔と闘いながら単語集を開く黒須さんを静かに見守ってくれたメンバー、気持ちが落ち込んだときに話を聞いてくれた家族。多くの人に支えられ、ついに夢は実現した。

「試験直前は、ベッドの上のぬいぐるみからも『勉強しなさい!』って言われている気がするほど追い込まれて(笑)。それでも頑張れたのは、応援してくれる人がいたから。2年かかった分、喜びも倍になりました」

 今年は新型コロナウイルスの影響で入学式も行われず、現在のところ講義はほぼ全てオンライン。そんな状況でも、黒須さんの学習意欲は高まっているようだ。これまでに受講した科目の中では、さまざまな社会問題の背景や問題の構造を考える「社会学」に興味を持ったという。

「大学では受験勉強よりさらに細かい知識を覚えなければいけないのかと思っていたら、全然違いました。大学の授業は自分の視野や興味の幅を広げてくれるし、人として成長させてくれる。すごく楽しいんだよ!って高校生のときの自分に教えてあげたいです」

 今後、対面授業が再開されたときには「苦手なディスカッションなどにも挑戦したい」という黒須さん。大学で学んだことを仕事に生かし、グループの中で唯一無二の個性を発揮できる存在になることが今の目標だ。

黒須遥香(くろす・はるか)
2001年、埼玉県生まれ。16年、AKB48第16期生オーディションに合格。現在、チーム4に所属。好きな言葉は「七転八起」。

(文・木下昌子)

※AERAムック『国公立大学by AERA 2021』より抜粋

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