「年配の人がキックボクシングなんて、という固定観念を壊してくれたのは平林さん。キックボクシングの動作はリハビリにもいいと思いました」(生井さん)
ツイッターで注目された鹿島清之進さん(89)もまた、開院時から通う患者だった。5月末のある日、鹿島さんは杖を突いて整骨院を訪れた。約2カ月の自粛期間中に筋力が低下し、杖なしでは歩けなくなったという。
82歳までタクシー運転手として働き、かつては野球チームでキャッチャーだった鹿島さん。近年は体を動かす機会が激減し、自粛生活が心身ともに追い詰めた。
「相当落ち込んでいる様子でした。『一人で家にいると、涙が出てくる』と言っていたこともあったんです」(生井さん)
そんな鹿島さんの様子を見た生井さんは、一時的に筋力が低下しているだけで、トレーニングすれば戻ると考えた。そこで、まずは寝たままで脚を動かす筋トレを開始。約2週間で自力で歩行できるようになったため、立った姿勢での筋トレに切り替えていった。
ある日、鹿島さんが「肩甲骨も動かしたい」と言ったことから、生井さんからキックボクシングを提案してみた。
「平林さんの経験があったから、おすすめできました。肩甲骨の動作と背中の筋肉はパンチを打つ動きに欠かせませんから」(生井さん)
雨の日以外はほぼ毎日通い、筋トレやパンチの練習を続けた鹿島さん。
「こいつ(生井さん)が憎たらしいから、ひっくり返してやろうと頑張ってる」
と冗談を言いつつ練習を重ね、今では25キロのバーベルを背負ってスクワットを行い、パンチを繰り出し、片足で膝蹴りできるまでになった。
「苦しいときもあるけど、1日ずつ積み重ねると、できるようになるもんだね」(鹿島さん)
二人は運動機能が向上しただけでなく、笑顔が増え、前向きな気持ちになったという。
「肩甲骨を動かせば、肩こり解消や血流促進になり、骨盤を動かせば姿勢が安定します。高齢になっても適切なサポートがあれば、キックボクシングだってできる。キックボクシングのイメージが少しでも変わればと思っています」(生井さん)