テレビで見たハコさんは、生い立ちのストーリーを語り、ヒット曲を次々と歌う。五木寛之原作の映画「青春の門」に作った「織江の唄」など、歌うにつれて本来の声が出てきて、最後ははじけるように歌い上げた。
よかった! 元気だった。彼女なら大丈夫。
番組の終わるのを待って、すぐ電話をした。最初は話し中だったが、すぐつながって久々に話をすることができた。
八カ月も歌っていなかったから、声が出るかどうか不安だったというが、以前より心に沁みる歌が歌えるようになっていた。特に弱音に秘めた思いが胸を打つ。
「毎日泣いてました……」
安田さんが亡くなってからの日々、どんなにつらかったか。
「約束したんです。絶対死なないって」
歌い続けるという約束を陰ながら応援したい。これも大切な「縁」なのだ。
※週刊朝日 2020年12月25日号
■下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。主な著書に『家族という病』『極上の孤独』『年齢は捨てなさい』ほか多数.