猪原部長が考察する。
「不整脈があると心臓から押し出す血液の量が低下します。アブレーションで治療をすることで脳への血流が改善されたため、認知症リスクが下がったと考えられます」
心房細動では薬物治療も有効だ。認知症予防のためにアブレーションをするかどうかについては、「検討が必要だ」と猪原部長は言う。
認知症は発症する前に軽度認知障害(MCI)という段階を経ることがわかっている。MCIは「本人や家族から記憶障害の訴えがある」「年齢などでは説明できない記憶障害がある」「日常生活は普通に送ることができる」というときに診断される病態で、厚労省の推計では、MCIの人は約400万人に上る。
「MCIがあると、1年間で100人中5~15人が認知症に移行するといわれています。しかし、その段階でとどめることも可能で、それこそが認知症予防の観点からは大事になります」
こう話すのは、認知症の発症前の病態を研究する新潟大学脳研究所生命科学リソース研究センター(新潟市)の池内健(たけし)教授だ。新たな予防策の一つとして提案するのが、栄養不足の予防。特にたんぱく質の摂取が必要だという。
池内教授らは全国13の施設と共同で、MCIコホート研究を実施している。その第1段階の結果が10月末に公表された。
MCIの200人と、認知機能が正常な200人の血液を採取。血液中のアミノ酸の状態を比較すると、MCIの人のアミノ酸は正常な人に比べて少なかった。特にリジンやスレオニン、バリンといった必須アミノ酸の量が足りなかった。
「必須アミノ酸とは、自分で作ることができず、食べものからしか取ることのできないアミノ酸です。つまり、MCIの人は、慢性的にたんぱく質の摂取不足が起こっている可能性があると推測されます」(池内教授)
自身のアミノ酸の量を知りたい人は、味の素が開発した「アミノインデックス」という検査を受けてみるのも手だ。健診の一環で自費診療となるが、一部の施設で受けられる。(本誌・山内リカ)
※週刊朝日 2020年12月25日号

