首脳会談でひじを合わせる菅義偉首相(右)とオーストラリアのスコット・モリソン首相/11月17日、首相官邸 (c)朝日新聞社
首脳会談でひじを合わせる菅義偉首相(右)とオーストラリアのスコット・モリソン首相/11月17日、首相官邸 (c)朝日新聞社
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AERA 2020年12月28日-2021年1月4日号より
AERA 2020年12月28日-2021年1月4日号より

 豪州の首相と軍事協力の重要性を確認した菅首相。地位協定締結に合意し、日豪は事実上の“日豪同盟”を締結したような関係だ。アジアで進む“反中包囲網”には疑問を呈する菅首相だが、豪州は「嫌中」の動きもある。AERA 2020年12月28日-2021年1月4日合併号では、その矛盾に迫った。

【菅首相・モリソン首相の合意内容はこちら】

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 疫病の蔓延阻止か観光業界の救済か、菅義偉首相は二兎を追って右往左往を続けてきた。それと同時に対外関係でも国の浮沈に関わるような二股政策を余儀なくされている。米国と中国の対立が激化するなか、国益上どちらとも関係を悪化させたくない思いはありながら、中国包囲網に引き込まれつつある。

■豪首相来日で関係進展

 自民党総裁選挙を目前に、9月12日に日本記者クラブで開かれた公開討論会で菅氏は「アジア版NATOは敵味方を作ってしまい、反中包囲網にならざるをえない。戦略的な外交のあり方や、国益の観点から正しくない」と述べた。

 これは安倍晋三前首相の二股路線の継承だった。安倍前首相は「日米同盟の強化」を唱え、ドナルド・トランプ米大統領に追随する一方、中国との友好関係確保を目指していた。

 2006年、1度目の首相就任から12日後、北京に飛んで胡錦涛主席と会談し「戦略的互恵関係の構築」で合意。14年には習近平主席と尖閣問題で「双方が異なる見解を有していると認識する」として事実上棚上げにした。中国の「一帯一路」構想には何度も協力を表明し、今年には習主席を国賓として招待し、日中和解の仕上げをするはずだった。

 菅首相も9月16日に首相に就任すると、25日に習近平主席と電話会談し「首脳間を含むハイレベルで2国間および地域、国際社会の諸問題について緊密に連携して行く」ことで合意した。

 ところが11月17日にオーストラリアのスコット・モリソン首相が来日。菅首相との会談で、自衛隊と豪州軍の協力強化の重要性を確認し、相互に訪問して共同訓練、演習を行うこと、そのために部隊の法的地位の明確化や刑事裁判権、部隊運用などに関する「日豪円滑化協定」(地位協定)を締結することで合意し、早期署名を目指すことになった。

 これに先立ち10月19日には豪州のリンダ・レイノルズ国防大臣が来日して岸信夫防衛大臣と会談、自衛隊が豪州軍の艦艇、航空機などを守る「武器等防護」を行うための調整をすることで合意している。これと今回合意した部隊の相互派遣、共同演習、部隊運用の連携、以前に決めた物資提供などを重ねると、事実上の同盟関係になる。

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